☆給与減額通告に対する「わかりました」の返事は同意ではない!☆

相談者を含め社員3名の小さなデザイン会社で働く従業員からの相談があった。

社長から突然、経営不振および相談者の能力不足を理由として賃金の切り下げを言い渡された。

突然のことで反論もできないまま「分かりました。」と答えざるを得なかった。

後になって冷静に考えてみると給与減額には納得できないとの相談である。

 

労働条件の不利益変更は使用者が一方的に言い渡せるわけではない。

労働契約法8条は、「労働者及び使用者は、その合意により、労働条件を変更できる」と規定する。

労働者との合意抜きの使用者の一方的な給与減額通告には法的効力はない。

 

次の問題は「分かりました」という返事をもって労働者が合意した解されるか否かである。

労働者の合意の認定方法の問題である。

 

合意は労働者の自由な意思に基づくものであることが前提となる。

契約関係一般では当然の建前であるが、労働契約は、使用者と労働者との間の交渉力格差が非常に大きいため、実際は使用者の一方的通告によって不利益変更される例が少なくない。

 

交渉における労使の実質的対等を実現するためのものとして、法は、労働組合による集団的交渉制度を用意しているが、労働組合の組織率が低下した現在、労働組合法制だけに頼ることはできない。

裁判実務においては、労働条件の不利益変更に対する労働者の合意の認定に際して、使用者との交渉力の違いを考慮した上で、厳格、慎重な判断がなされる傾向がある。

  

本件における労働者の「わかりました。」は社長が言っていることは理解しましたという意味で断じて賃金切り下げに同意したという意味と解されるものではない。(直井)

 

 

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☆「新しい生活様式」(在宅勤務)と賃金減額のセット☆

現在、コロナ禍で在宅勤務中の方から相談があった。

会社からオフィス勤務か在宅勤務かを選択し、新たな労働条件への同意書に署名するように求められた。

在宅勤務を希望する場合は賃金が1割ほど減額する。

 

通勤の煩わしさやコロナの感染リスクを考えるとオフィス勤務には戻りたくない、とは言っても、在宅勤務で賃金減額は困る。

「新しい生活様式」(在宅勤務)が賃金減額とセットになっている。

何か変ではないかとの相談であった。

 

労働条件の変更は契約内容の変更であるから、使用者と労働者との合意が必要です(労働契約法8条)。

また、労働者との合意なしに就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することは許されません(労働契約法9条)。

 

すなわち、法律上は原則として、労働者との合意なしに使用者が一方的に賃金減額をすることはできない仕組みになっています。

ただし、例外もあります。

 

労働契約法10条は、例外的に労働者との合意なしに就業規則の変更により労働条件を不利益に変更できる場合を定めています。

その場合、要件として変更後の就業規則の周知と変更内容が合理的であることが求められます。

 

変更内容の合理性をどのようにして判断するかについて、法は考慮事項として以下の5項目を示しています。

①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情。

 

いずれにしろ、使用者は恣意的に労働条件を変更できるわけではありません。

新しい賃金制度に納得ができないならば、同じ思いの仲間を集めて使用者と交渉してはどうでしょうか。

 

労働組合の出番です。

社内に労働組合が存在しないならば、企業外の組合である個人加盟方式のユニオンに相談することを薦めます。(直井)

 

 

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☆会社が退職を迫る二択の罠☆

コロナ禍による業績不振を理由として、①賃金の大幅な減額を伴う本社管理部門から店舗のスタッフへの異動を提示され、それが嫌なら、②自己都合退職してもらう、どちらかを選択して欲しいと社長からいわれた。

どう対応すれば良いのか、との相談があった。

会社から、①労働条件の不利益変更を受け入れるか、さもなくば、②自主退職か、との二者択一を迫られたとの相談は少なくない。

 

二択を迫られた従業員は、自らが採りうる選択肢が会社の示した二択以外にはないと思い込み追い込まれる。

突然の宣告に頭が真っ白となり、労働条件の大幅な切り下げは受け入れ難いため、その場で会社が準備した退職届けに署名してしまう例も少なくない。

会社の思う壺である。

 

そもそも、会社が一方的に提示した二つの選択肢のどちらかを選択しなければならない法的な義務は従業員にはない。

法的には、どちらも断っても、従前の内容の労働契約が継続するだけだ。

契約内容(労働条件)の変更は当事者の合意で成立するものだからだ。

従業員側から給与の減額幅の縮小や退職条件(退職金の増額)の提案など第三の選択肢を逆提案することも許される。

 

もっとも、合意解約ではなく、解雇ならは使用者が一応は一方的に行える。

しかし、解雇が法的に有効であるためには、「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」など厳格な要件が法(労働契約法16条)に定められている。

また、会社が解雇(会社都合退職)を避け自主退職(自己都合退職)にこだわる理由には、法的に争われるリスクの回避とは別に、雇用調整助成金など各種助成金の申請上の不利益を避けるためという事情もある。

 

どちらも受け入れがたい二択を会社から迫られたら、その場での回答は留保して、弁護士、労働組合(ユニオン)など労働問題の専門家に相談することをお勧めします。(直井)

 

 

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