☆未成年者が提出した退職願の有効性☆

この4月に高校新卒で採用され、試用期間中であり研修期間中であった6月初旬には退職に追い込まれた未成年者A(18才)の父親からの労働相談があった。

未成年者Aは就職と同時に親元から独立して一人暮らしをしている。

会社はシステム構築を主な業務とする大手SI企業である。

 

民法の建前では未成年者は単独では有効に契約などの法律行為を行うことができない。

未成年者が労働契約を締結するには法定代理人(親権者)の同意を要する(民法5条1項)。

そして、同意を得て未成年者が締結した労働契約であっても、親権者らは、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向かってこれを解除することができる(労基法58条2項)。

 

他方、未成年者が労働契約を親の同意なしに単独で有効に解約できるか否かについては労基法にも民法にも明文の規定はない。

しかし、未成年者が親の同意を得て労働契約を締結した場合は、未成年者が営業を許された場合の規定(民法6条)を準用して、労働契約上の諸行為につき未成年者は「成年者と同一の行為能力を有する」と解されている。

 

そうとすると労働契約の解約は未成年者が親の同意なしで有効に行いえると解される。

本件については、未成年者Aが退職願いを提出していることから、退職願い提出の任意性が争点となった。

 

未成年者Aは新しい職場になじめず体調を崩し5月の連休以降休みがちになり、心配した研修担当者のアドバイスもあり心療内科を受診した。

診断の結果、医師は抑うつ状態にあることから療養のため3か月間の休養を勧めた。

 

未成年者Aがその旨を会社に報告したところ、人事担当者は直ちに産業医面談を設定し、産業医面談において、産業医は3か月程度の休養の必要性を認めた。

産業医面談に同席した人事担当者は、試用期間中の長期病気休職は認められないこと、及び解雇されると次の就職に不利になることから、自主退職以外の選択肢がないことを未成年者Aに述べ、早期に自主退職を決断するうように促した。

 

そして、産業医面談から1週間も経たない時期に設定された退職手続きの場において、未成年者Aは、人事担当者に促されるままに、「一身上の都合による退職」であることを記載した「退職願」、「会社に関係のない自己都合退職」であることを記載した「退職理由書」などに署名押印のうえ提出した。

 

以上の退職の経緯からすれば、会社の対応は違法とまではいえないとしても、いまだ試用期間中の高校新卒採用の未成年者にはいささか酷に過ぎる。

会社には新規採用職員を長い目で見守り育てる姿勢が感じられない。

 

むしろ、大量採用した新卒の落ちこぼれを効率よく切り捨てるというブラックさを感じる。

退職願いを提出する前に相談に来てもらえれば別の解決もあったのではないかと悔やまれた。(直井)

 

 

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