☆年度途中で退職した保育士に対する家賃請求☆

都内のある区に所在する保育園を退職した保育士からの相談があった。

この4月に採用され、5か月間勤務の後に職場の人間関係のストレスから退職したところ、保育園から無償で提供されていた借り上げ宿舎の家賃分として40万円(8万円×5月分)の支払いを求められた。

 

園の説明によると、保育士の宿舎借上げに対する区による助成を前提として借り上げたマンションを保育士に無償で提供していたが、年度途中の退職者は区の助成の対象とはならないため、園が負担した家賃額の返還を求めるとのことである。

区に照会したところ、確かに年度ごとの補助事業であり、年度途中に退職した保育士にかかる借り上げ家賃は助成の対象とはならないこと、及び、園と保育士との家賃負担の紛争について区は関与しないとの回答があった。

 

この家賃助成制度は、近年問題となっている保育士不足対策としての厚生労働省の「保育士宿舎借り上げ支援事業」に基づくものである。

園は、行政による「保育士への家賃補助制度」を都合のいいように解釈して、年度途中退職者の足止め策として利用している。

 

相談者によれば、年度途中対象の場合は家賃を請求するとの説明を契約締結時に受けていないしそのような合意もしていないとのことだ。

この点は入社初日に説明済みとの園の主張と齟齬がある。

 

しかし、仮にそのような合意があったとしても、その合意自体が労働基準法16条が禁ずる「退職に対する損害賠償額の予定」の趣旨に反する違法なものである。

区の関知しないとの対応には疑問がある。(直井)

 

 

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☆非正社員の格差是正☆

今週の火曜日(10月13日)及び木曜日(10月15日)に、相次いで労働契約法20条に基づく非正社員の格差是正にかかる最高裁の5つの判決がでだ。

労働者側にとっては、退職金・ボーナスは敗訴、他方、扶養手当・夏期冬期休暇格差は勝訴と明暗を分けた。

 

これらの訴訟は、契約社員やアルバイトなど有期契約で働く非正社員と正社員との間で、労働条件の「不合理な格差」を禁じた労働契約法20条の規定(現在はパートタイム・有期雇用契約法に移行されている。)に基づき争われたものである。

最高裁が示したのは当該法規定が禁じた「不合理な格差」の解釈・適用である。

 

できるだけ労働者を安く便利に使いたいのは、利益を目的とする企業にとってはある意味自然のことといえる。

したがって、法の規制など何らかの制約がなければ、労働契約の場において圧倒的に強い立場にいる使用者は、正社員を減らし、使い勝手のいい非正社員を増やし続けることになる。

 

法律による歯止めは必要不可欠である。

しかし、法律ができれば自然と格差がなくなるわけではない。

職場において格差の是正を実現するためには、非正社員自身が不合理な格差に異議申し立てをし続ける必要がある。

 

しかし、ひとり一人の労働者は使用者に対して圧倒的弱者である。

使用者に対峙する集団としての労働組合の出番だ。

正社員中心の既存の労働組合が十分に機能していないというのならば、非正社員が自らの組織化を考えるときではないか。(直井)

 

 

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☆会社都合退職(解雇)は転職に不利?☆

事務を処理する速度が遅いなど能力不足を理由に解雇を言い渡された事務職員から相談があった。

相談事は不当解雇についてではなく、能力不足の理由による会社都合退職は転職活動に不利になるかとの心配であった。

 

転職先の採用面接において、離職理由を尋ねられたときの対応の相談です。

相談者は退職会社がハローワークに提出する書類を気にしていた。

しかし、会社が被保険者資格喪失届とともにハローワークに提出する離職証明書(離職票)には単に離職理由欄の「解雇(重責解雇を除く)」にチェックが入るのみで、具体的な離職理由は記載されません。

 

そもそも、採用面接で離職票の提示を求められることはありません。

また、かりに転職先の会社が退職会社に離職の事情を問い合わせても、従業員の個人情報であることから、退職会社が照会に応ずることは通常は考えられません。

 

採用面接で前職の退職理由を聞かれたら、社長(上司)と折り合いが悪くなり転職を進められたこともあり退職することになったなど、当たり障りのない理由を述べれば足ります。

それ以上、事細かに追求する面接官はいません。

 

もっとも、採用面接で積極的な嘘をつくことはお薦めしません。

横領など理由とする懲戒解雇などの不名誉な退職事由でなければ、会社都合退職(普通解雇)であることを必要以上に気にすることはありません。(直井)

 

 

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