☆「新しい生活様式」(在宅勤務)と賃金減額のセット☆

現在、コロナ禍で在宅勤務中の方から相談があった。

会社からオフィス勤務か在宅勤務かを選択し、新たな労働条件への同意書に署名するように求められた。

在宅勤務を希望する場合は賃金が1割ほど減額する。

 

通勤の煩わしさやコロナの感染リスクを考えるとオフィス勤務には戻りたくない、とは言っても、在宅勤務で賃金減額は困る。

「新しい生活様式」(在宅勤務)が賃金減額とセットになっている。

何か変ではないかとの相談であった。

 

労働条件の変更は契約内容の変更であるから、使用者と労働者との合意が必要です(労働契約法8条)。

また、労働者との合意なしに就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することは許されません(労働契約法9条)。

 

すなわち、法律上は原則として、労働者との合意なしに使用者が一方的に賃金減額をすることはできない仕組みになっています。

ただし、例外もあります。

 

労働契約法10条は、例外的に労働者との合意なしに就業規則の変更により労働条件を不利益に変更できる場合を定めています。

その場合、要件として変更後の就業規則の周知と変更内容が合理的であることが求められます。

 

変更内容の合理性をどのようにして判断するかについて、法は考慮事項として以下の5項目を示しています。

①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情。

 

いずれにしろ、使用者は恣意的に労働条件を変更できるわけではありません。

新しい賃金制度に納得ができないならば、同じ思いの仲間を集めて使用者と交渉してはどうでしょうか。

 

労働組合の出番です。

社内に労働組合が存在しないならば、企業外の組合である個人加盟方式のユニオンに相談することを薦めます。(直井)

 

 

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☆雇用調整助成金の申請期限の延長☆

厚生労働省は昨日(8月28日)、新型コロナウイルス対策で拡充されている雇用調整助成金の特例措置を、現行の助成率や上限額のまま12月末まで延長すると正式に発表した。

 

雇用調整助成金は、仕事がない時に雇用を維持して従業員を休ませた企業に対し、従業員に払う休業手当の費用を支援するものだ。

現在、特例措置により4月~9月は、中小企業向けの助成率を最大100%に、1日あたりの上限額を1万5千円に引き上げている。

この特例措置が12月末まで延長されることになる。

また、休業手当を払ってもらえない中小企業の休業者向けの給付金も、同様に12月末まで延長される。

 

新聞報道などでは特例措置の対象期間の延長にかかわる報道はあるが、意外と見落とされがちなのは申請手続きに関する情報である。

対象期間の延長だけでなく、申請期限の延長がなされたことも実務上は重要な情報である。

 

すなわち、雇用調整助成金の支給申請について、通常は、判定対象期間の末日(賃金締切日)の翌日から2か月以内に支給申請を行う必要があるが、判定基礎期間の初日(賃金締切日)が6月30日以前の休業に係るものについては、9月末日までに延長されることが厚生労働省より8月24日に公表された。

4月分と5月分の従来の申請期限8月31日が9月30日まで延長されたことになる。

 

いままで、忙しい、手続が面倒だと敬遠していた使用者も少なくないと思われる。

折角、申請期限が延長されたのだから、使用者が従業員のためにも積極的にこの制度を利用することを期待したい。(直井)

 

 

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☆雇調金なしは解雇回避努力なし!☆

コロナ禍における労働相談は、当初の休業手当問題から解雇問題へとその内容が変化している。

企業が先の見通しのつかないコロナ不況に我慢しきれず、従業員の雇用に手をつけはじめたからと思われる。

従業員の非違行為や能力不足を理由とするのではなく、経営環境の悪化など経営上の理由による解雇は整理解雇といわれる。

 

整理解雇については、裁判例の蓄積によるいわゆる「4要件」の法理が形成されている。

すなわち、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くしたかどうか、③解雇対象者の人選基準とその適用の合理性、④労働者側との協議などの手続きの妥当性、という4点から、当該整理解雇が有効か、無効かを判断する法理である。

 

何の事前の説明も協議もなしに突然、ホテル部門の事業停止と全員解雇を通告されたとの相談があった。

話しを聴くと、雇用調整助成金を十分に活用しないままになされた整理解雇である。

 

解雇は、労働者の唯一の生活手段を奪うものであることから、経営者にとっては、あらゆる手段を尽くした後に最後にとりうる手段である。

雇用調整助成金は、従業員を休業させて雇用を守ったときの費用を国(雇用保険)が負担する国の制度である。

コロナ不況への対策として、コロナ特例措置が導入され、その後の数度の制度改正を経てずいぶん使い勝手が良くなったといわれる。

 

このコロナ特例の雇用調整助成金を積極的に活用すれば会社の経費負担がほとんどゼロの状態で雇用を維持できるにもかかわらず、手続きが面倒だとかの理由で、それをしないでの解雇は「②解雇回避努力義務」に違反するといわざるを得ない。

また、本件事例は、従業員との協議・相談なしの不意打ちの解雇通告によるものであり、「④労働者側との協議などの手続きの妥当性」も認められない違法・不当な解雇である。(直井)

 

 

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☆コロナが怖い!☆

大都市圏を中心としたコロナの感染拡大が止まらない。

首都圏の幼稚園に勤務する女性から夏の恒例の行事である2泊3日の研修を兼ねた高原キャンプに参加したくないとの相談を受けた。

 

相談者は、もともとはその時期に帰省して郷里の法事に参加する予定で有給休暇を申請していたが、コロナ感染を心配して帰省を辞めたら、園長から、帰省しないならば県外で実施される高原キャンプに参加するうように指示されたという。

 

高原キャンプには幼稚園の経営主体である教会関係者も多数参加する。

教会関係者でもある園長にとっては重要な行事であり、かつ、楽しみにしている夏の行事だ。

 

相談者は集団生活でコロナをうつすのも、うつされるもの怖い、帰った後に園児にうつすのも怖い、と感じている。

園長にコロナ感染が怖いので、高原キャンプ研修には参加したくないと申し出たら、心配しすぎだといわれたとのことである。

 

使用者には従業員が自らの生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務がある(労働契約法5条)。

配慮すべき「身体等の安全」には当然「心の安全」も含まれる。

コロナ感染が怖いと感じる程度には個人差がある。

当該従業員が本当に怖いと感じている以上、使用は一定の配慮をすべきだ。

 

そもそもこのような時期に業務命令として県外へのキャンプ研修への参加を従業員に強制できるかは疑問である。

さらにいえば、幼児を預かる幼稚園の責任者として園長の対応には問題があるといわざるを得ない。(直井)

 

 

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☆労基法の休業手当(6割)と民法原則(10割)

休業要請対象業種ではないが、コロナ禍のなか4月から上司の休業指示を受け、緊急事態宣言が解除された後も休業指示が続いている。労基法の定める平均賃金の6割の休業手当は支払われているが、これでは生活ができないので困っているとの相談があった。

 

使用者の責めにきすべき休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない(労基法26条)。休業手当と称されるものである。他方、民法においては、債権者(使用者)の「責めに帰すべき事由」による債務(労働義務)の履行不能の場合には債務者(労働者)は反対給付請求権(賃金請求権)を有するとされている(民法536条2項)。

 

この民法原則と休業手当の保障との関係については、労基法上の休業手当の保障における「責めに帰すべき事由」は民法上の反対給付請求権の有無の基準である「責めに帰すべき事由」(故意、過失または信義則上それと同視すべき事由)よりも広い。

すなわち、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しないかぎりは労基法上の使用者の帰責事由に含まれると解されている。

 

要するに、休業手当は、労働者の最低生活を保障するために、民法により保障された賃金請求権のうち、平均賃金の6割にあたる部分の支払いを罰則によって確保したにとどまらず、使用者の帰責事由をも拡大した。

 

以上は「労基法上の休業手当(6割)と民法原則(10割)の関係」についての代表的な労働法の教科書の説明である。

相談者が労基法上の6割ではなく民法上の10割を求めて裁判を提起する場合、当該休業にかかる使用者の帰責事由(故意、過失または信義則上それと同視すべき事由)の存否が争点となる。(直井)

 

 

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