☆労働トラブルの闘い方☆

第9章  傷病休職後、復職を拒否された!


傷病休職後、復職を拒否された

体調が思わしくないので、会社を3か月間休んだ。

3か月後、「さぁ、職場に復帰しよう!」と思って会社に連絡したところ、「会社としては、従前の仕事を任せるには不安があるので、あなたを働かせるわけにはいかない。」「貴方の代わりに既に新しい従業員を採用してしまった。」と言われ、復職を拒否された。

 

労働者本人としてみれば、休職の原因となった疾病等が無くなったのだから、当然復職できると思っていたのに、全く納得がいかない。場合によっては、主治医の「復職可能である旨の診断書」を会社に提出したにもかかわらず、復職を拒否されることもあります。

 

さらに心配なのは、休職期間満了に伴い、「解雇(あるいは、自然退職)という事態にもなりかねない」という現実である。そうなると、無職になってしまい、生活に困ってしまう。ここは、病み上がりの体を引きずって、新しい就職先を探すしか方法はないのか・・・。

 

なんとも厳しい状況ですが、このような相談も実際によくあります。個々の傷病の状況や会社の事情は、それぞれ異なりますので、ここは冷静に貴方の現在置かれた状況を把握し、適切な行動をする必要あります。会社の言い分が正しいこともありますが、会社の対応が法的に問題がある場合も多々あります。もし、傷病休職後の職場復帰に対する会社の対応に納得がいかない場合には、まずは専門家にアドバイスを求めることをお勧めいたします。

 


<こんなふうに対応する>

①  まずは労働者の傷病が業務上によるものなのか、業務外によるものなのか検討する。

  ◆ 仮に労働者の傷病の原因が業務上による場合には、たとえ会社の復職拒否により自然退職になっても、このような場合には実質的に解雇と同視でき、解雇権濫用法理の類推適用が認められ、結果、労働契約の存続が認められる可能性があります。

  ⇒ 業務上の傷病により休職している期間、及びその後30日間は、原則として、会社は当該労働者を解雇することはでません。(労働基準法第19条)

  ◆ 労働者の傷病の原因が業務外であった場合には、②以降の対応をすることになります。

 労働者の傷病が業務外であった場合には、会社の就業規則等の休職規定を確認する。

 ◆休職制度は、もともと法律上の概念ではなく、任意の制度です。ですから、会社側が休職制度を採用するか否かを自由に決定できるのことになります。

 ⇒ 紛争になった場合、休職制度の内容を合理的に解釈して判断していくことになります。

   ●  就業規則に私傷病休職制度があった場合

 ⇒ 下記の点を確認しましょう!

    ア)何か月まで休職することができるのか(休職期間の確認)

  イ)休職期間が満了時の取り扱いはどうなっているのか(復職できない場合、解雇になるか退職となるのかの確認)

  ウ)休職期間中の賃金はどうなっているのか(生活保障の確認)

  ヱ)復職する場合の手続きについて(「治癒」の証明方法等の確認)

● 就業規則がない場合や就業規則に休職規定がない場合

  ⇒ 休職に入る時の合意内容(約束ごと)があれば、しっかりと記録に残しておくことが肝要になります。 

  自分の労働条件を確認する

   ⇒ 労働契約において自分の職種が特定されているか否かを確認しましょう!

    ※ 職種が特定されていない場合は、休職前の業務(原職)への復帰が困難であっても現実に配置転換可能な業務があればその業務に復帰させるべきだと解され、復職は広く認められる傾向にあります。

  会社の就業環境を把握する

   ⇒ 確認すべきポイントは下記の3点です!

   ア) 会社内で配置転換が可能か否か、

   イ) 現実に配置転換が行われているか否か

   ウ) さらに、休職前の業務(原職)への復帰が困難であっても、現実的に配置可能な業務があるか否か。

  ※ 仮に当初は原職への復帰は無理な場合でも、他の軽易な業務に就くことができ、ほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶりである場合には、会社はそのような配慮を行うことを義務づけられる場合もあります。

  主治医に「復職可能であるとの診断書」を出してもらう

   ⇒ ご自身が職場復帰できるか否かを判断するにあたり、

    専門家の所見は極めて重要になります。

    原則として「治癒」すなわち、健康時と同程度の業務遂行能力にまで健康状態が回復した場合には、当然に復職(休職終了)となる場合もありますが、会社の復職(休職を解く)の意思表示を要する場合もあります。

      ※ たまに、主治医の診断と、会社の産業医や人事部の判断が異なることもあります。そのような場合、会社の主張する「職場に復帰できる条件」を明確にしてもらう必要があります。事前に復帰条件が確認できていれば、主治医の診断と会社の判断が異なるという事態を避けることができます。

⑥ 会社に「復職願」を提出する

    ⇒「復職願」の内容のポイントは、以下の2点です。

  ア)労働者本人の会社に対する復職したい旨の意思表示

 イ)労働者本人による休職事由の消滅したことの証明

⑦ 会社より、復職を拒否された場合の対応

    復職拒否が明らかに会社の都合による場合

    ⇒ 下記の請求が認められる可能性があります。

     ア)労働基準法第26条に基づく「休業手当」の請求

    イ)民法536条2項に基づく「賃金」の請求

   ⇒ さらに、雇用契約を一方的に終了させられた場合には、

    ウ)労働契約法第16条に照らして「解雇無効」(地位確認)の請求

⑧   復職願」に対し、会社側の復職拒否の理由が理不尽なものであったり、納得できなかったりした場合

 「労働相談カフェ東京」(03-5834-2300)に電話しアドバイスを受けましょう。(電話相談は無料、受付時間は平日9時~18時です!)

 

 


<「復職願」の書き方を知っておきましょう!>

 

 

復職願

 

平成  年  月  日

株式会社 〇〇〇〇

代表取締役 〇〇 〇〇 殿

所属 〇〇〇〇部 〇〇課

氏名 〇〇 〇〇  

 

 私は、平成  年  月  日より、病気療養のため休職しておりましたが、この度、復職ができる状態となりましたので、復職致したく申請いたします。

 

(なお、当初は従前の業務に復帰できる状態ではありませんので、当分の間、軽易な職務にて復帰させて頂きたくお願い申し上げます。)

(なお、復職後すぐには従前の業務にとりかかることが難しいかもしれませんが、ほどなく従前の職務に復帰できる程度の回復ぶりですので、よろしくお願い申し上げます。)

 

 

 

1.復職希望日 : 平成  年  月  日

2.復職可能となった事情: 〇〇の症状は、平成〇〇年〇月〇日頃にはなくなった。

3.添付書類  : 〇〇病院の診断書

 

以上

 

 

  会社に「復職願」の所定の用紙がある場合はそれを利用することになります。

   あくまでも記載例の見本です。

 

 

 

<治癒したか否かの判断は、労働者の職種が限定されているか否かで違ってくることを知っておきましょう!>

◆ 労働者の職種が限定されている場合

 原則として、治癒とは休職期間満了時に、休職前の職務(原職)を支障なく行い得る程度に行える健康状態に回復したことと解されています。(ニュートランスポート事件 静岡地富士支決昭和62年12月9日労経速1322号3頁)

 ⇒例外として、就業規則上で職種の変更が予定されていることその他の事情があるときは、原職に復帰できる程度に健康状態が回復していなくても債務の本旨に従った労務の提供があると認められる(治癒が認められる)と解されうることができます。(カントラ事件 大阪高判平成14年6月19日労判839号47頁)

 

◆労働者の職種が限定されていない場合

 休職前の業務について労務の提供が十分にできるほどには健康状態が回復していなくても、労働者の地位、経験等の事情や使用者の社内事情等に照らして配置替え等により、現実に配置可能性のある他の業務があり、その業務について労務の提供を十分にできる程度まで健康状態が回復している場合には、治癒が認められると解されています。(片山組事件 最一小判平成10年4月9日労判736号15頁)

 

 

(労働紛争解決アドバイザー 横川)