☆試用期間的な有期契約はお試し期間ではない!☆

正社員募集に応募したら、採用面接において、とりあえずはお互いが合うかどうかをみるためといわれ6か月間の有期契約書への署名押印を求められ、そのあげく、6か月間経過後には正社員登用の約束は反故にされ、続けて働きたいのであれば、これが最後の契約である旨の記載のある6か月間の有期契約書に署名押印するように求められたとの相談があった。

 

会社によっては試用期間を形式的には有期契約として契約書を取り交わす例がみられる。

そのこと自体は違法ではない。

しかし、試用期間としての性質を有する有期契約においても、会社は自由に正社員への登用拒否(本採用拒否)を行えるわけではないことは通常の試用期間と同様である(神戸弘陵学園事件・最三小19906月5日判決)。

正社員への登用拒否(本採用拒否)には解雇の場合と同様に客観的・合理的な理由が求められる。

 

ところで、試用期間的な有期雇傭は、国の制度であるトライアル雇用と形式的には似た面がある。

トライアル雇用は働いた経験の少なさなどから正社員への就職の機会に恵まれない就活弱者に正社員への移行を前提として原則3か月間企業で働く機会を与える制度である。

使用者には制度利用の誘因として助成金(月額4万円)を支給する。

 

トライアル雇用は、正社員への移行を前提とした制度ではあるが、必ずしも使用者には正社員としての採用義務があるわけではないと解されている。

トライアル雇傭終了時に本採用に移行するかどうかは使用者が判断することになる。

トライアル雇傭には労使双方にとって「お試し期間」という性格があるからである。

 

しかし、通常の試用期間(試用期間的な性質を有する有期契約を含む)はお試し期間ではない。

試用期間は、長期的な雇傭契約を前提として、採用時には判明できなかった不都合な事由がその期間中に発覚した場合、例外的に正社員への登用を拒否できる制度である。

 

本相談においては、正社員登用拒否の理由を記載した書面を会社に求めることを相談者にアドバイスした。(直井)

 

 

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☆退職勧奨を拒否したら、試用期間の延長!☆

薬剤師資格を条件としたうえで未経験OKの医療関連会社の求人に応募し、中途採用された。

3か月の試用期間満了前に、会社は、あなたを即戦力として雇ったにもかかわらず、3か月間の試用期間中の訓練によっても期待した独り立ちできる水準に達していないとして、退職勧奨をしてきた。

 

退職勧奨を拒否すると一方的に試用期間延長を言い渡され、週に1回、指導を名目とした上司との面談が組まれることになった。

この面談が苦痛でいっそのこと辞めてしまいたいとの相談があった。

 

そもそも、試用期間の延長は、就業規則などで延長の可能性およびその事由、期間などが明定されていないかぎり、試用労働者の利益のために原則として認められない。

解約権留保付き労働契約と解される通常の試用関係においては、解約権が行使されないまま試用期間が経過すれば、労働関係は留保解約権なしの通常の労働関係に移行するのが原則であるからである。

 

ただし、本採用を拒否できる客観的な事由がある場合にそれを猶予する延長は、試用労働者の利益になることから、認められうる(雅叙園観光事件・東京地判昭60年11月20日)。

したがって、本件で問題とされるべきは、当初の3か月間の試用期間満了時点で本作用を拒否できる状態、すなわち、留保された解約権の行使が許される場合であったか否かである。

 

留保解約権の行使は、通常の解雇権の行使と同様に、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される。

 

具体的には、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくことが適当でないと判断することが上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」(三菱樹脂事件・最大判昭48年12月12日)である。

 

本件は中途採用であるところ、会社の提示した採用条件は、一定の資格(薬剤師資格、TOEIC800点以上)の保持のみであり、経験の有無は問わないというものであった。

その意味では新規採用と似た側面がある。

したがって、会社のいう即戦力とならないという理由は、それだけでは、留保された解約権の行使として許される範囲とは言い難い。

 

さらに試用期間の延長が退職勧奨とセットで提示されたことは、会社が留保された解約権を行使した場合に解雇事案として法的に争われるリスクを回避する目的で、労働者の自主的な退職をうながすための手段として試用期間の延長が持ち出されたことが窺われる。(直井)

 

 

 

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☆試用期間中の社保なしは違法!☆

労働相談を受ける際、まず、労働条件通知書などにより契約の基本的な内容を確認することにしている。

小規模な企業では試用期間中は社会保険に加入しないとの取り扱いをする例が少なくない。

 

「臨時に使用される者」を社会保険の適用除外とする規定(厚生年金保険法12条)についての使用者の誤解ないし悪用と思われる。

試みに使用される者は、勤務の永続性が前提となっているので、「臨時に使用される者」とは性質が異なる。

 

もっとも、私が現実に対応する相談者は試用期間中の社会保険の不適用を問題として相談に来るのではなく、試用期間中の使用者による恣意的な解雇を問題として相談に来るものがほとんどである。

なぜ、社会保険の不加入を問題として企業に怒らないのだろうか。

 

そこには、昨今話題となっている年金の老後資金2,000万円不足問題以前の現状がある。

安定した職場で働けない労働者には老後の年金生活を考えるゆとりさえないのである。

 

老後の年金生活で2,000万円の蓄えが必要であるとの試算のモデルとなっているのは、40年間厚生年金に加入し安定した雇用機会に恵まれた労働者である。

誰もが安心して働ける安定した雇用機会の保証こそが急務である。(直井)

 

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☆試用期間と有期雇用☆

6か月の有期雇用の期間満了による契約終了を言い渡されたIT技術者から相談をうけた。

相談者は正社員としての雇用を希望して採用に応募した。

始めは試用期間として6か月間の有期雇用契約を締結するということになり、雇用期間6か月の契約書を取り交わした。

 

採用時に取り交わした契約書は単に雇用期間6か月間と記載のあるもので、試用期間としてのものであるとの記載はなかった。

その後、試用期間は1度6か月間延長されたが、延長後の契約期間満了前に突然契約期間満了による契約終了を言い渡された。

 

試用期間として有期契約を利用する例は少なくない。

使用者は通常の試用期間とは違って、有期契約としての試用期間ならば期間満了を理由として解雇(雇い止め)が容易であると考えているのであろう。

 

しかし、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解される(神戸弘陵学園事件最高裁判決)。

 

試用期間か否かは、契約の形式ではなく実態で判断するのが裁判所の立場であり、有期雇用が試用期間であると判断される場合は、単に期間満了を理由とする解雇は許されない。

本採用を拒否する合理的な理由が必要である。

 

本件においては、あくまで本採用拒否(正社員にしないこと)の理由を明らかにするように会社に求めるようにアドバイスをした。(直井)

 

 

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☆「雇用期間=試用期間」の労働契約☆

雇用期間3か月の労働契約書を交わした労働者が期間の途中に解雇を言い渡され相談に来た。

使用者は、雇用期間3か月はすべて試用期間であり、解雇権濫用法理の適用はないと主張している。

3か月間の雇用期間の全てが試用期間という労働契約はどのような法的な意味をもつのだろうか。

 

判例(神戸弘陵事件最高裁判決)によれば、雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価・判断するためのものであるときは、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解される。

この判例法理に従えば、上記契約は3か月間の試用期間付きの正社員契約ということになる。

 

また、一般的に試用期間付き労働契約は、解約権留保付きの労働契約であると解されている。

しかし、試用期間中であろうと、使用者は解雇権濫用法理の適用を受けないで解雇の自由を有するわけではない。

上記最高判決はこの点について要旨以下のように判示する。

 

試用期間における留保解解約権の行使が許される場合とは、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるものの、当初知ることが期待できなかった事実等により、引き続き雇用しておくことが適当でないと判断できるだけの客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認することができる場合に限られる。

 

先の相談者には、解雇の無効を理由として正社員としての地位の確認を求めることが可能であるとアドバイスをした。

 

解雇権濫用法理の適用を免れ、解雇の自由の確保を目的とする「雇用期間=試用期間」の契約は、試用期間付き正社員契約と解されることから、むしろ労働者にとって有利な契約となる可能性がある。 (直井)

 

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