☆派遣社員の雇い止めが違法となる場合☆

3か月の派遣契約を2年ほど更新し続けてIT業務担当として働いていた派遣社員から相談を受けた。

「派遣先の体制変更」を理由として次回の更新をしないという通知を派遣会社から受けた。

同じ職場に派遣されている同僚の派遣社員は2名いるが、雇い止めを言い渡されたのは相談者だけらしいとのことである。

 

派遣社員は3か月とか6か月とか比較的短期の契約を更新し続けながら働く有期契約のものが多い。

いつ契約が打ち切られるかとの不安を抱えながら働いているものは少なくない。

 

有期雇用であっても使用者は恣意的に更新拒否できるわけではない。

 

労働契約法19条は有期契約の更新拒否にも解雇と同様に正当な理由が求められるという「雇い止め法理」を明文化したものだ。

すなわち、労働者が更新を期待することについて合理的な理由がある場合には、使用者が当該労働者の更新を拒否することに対して、正社員に適用される解雇制限法理に準ずる高いハードルをもうけている。

 

しかし、使用者と裁判で争うためには、まず使用者が主張する雇い止めの理由を明らかにすることが不可欠である。

そのために、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示357号)は、労働者が雇い止めの理由について証明書の請求をした場合には、使用者は遅滞なく証明書を交付しなければならないと定めた。

 

この規定により、更新拒否に納得できない有期雇用労働者はまず、解雇理由証明書を請求することになる。

正社員が解雇の無効を争う準備として、解雇理由証明書(労働基準法22条)をまず使用者に請求するのと同じ手法である。

使用者の主張する理由を書面(ないしメール)で明らかにさせることは重要である。

 

一方、派遣社員は雇い主(派遣会社)と仕事の指揮命令をする会社(派遣先)が別々である間接雇用である。

派遣先の都合を理由として派遣会社から契約の更新拒否を言い渡されても、直接派遣先に理由を問いただすことが事実上困難である。

そのようなことから、納得できなくても更新拒否を受け入れざるを得ないと諦める派遣社員は多い。

 

しかし、有期雇用の派遣社員も一般の有期雇用者と同様に労働契約法19条(雇い止め法理)の保護を受ける。

本件においては、相談者に「派遣先の体制変更」の具体的な内容および同僚の派遣社員2名の取り扱いについて派遣会社に説明を求めることをアドバイスした。(直井)

 

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☆事業縮小を理由とする契約社員の雇い止め☆

この3月末日で雇い止めをするとの口頭での通告を突然受けたとの相談があった。

相談者は、紹介予定派遣を経て1年半ほど前に直雇いとなった、販売事務職の契約社員である。

 

労働基準監督署の相談担当者のアドバイスにより雇い止め理由書の交付を会社に求めた。

その結果、ITシステム化により業務量が縮小傾向にあること、担当業務の一部外部委託を進めていることを理由とすると記載した「雇い止め理由証明書」が会社から交付された。

 

担当職場には1名の正社員と相談者を含め3名の契約社員がいる。

今回雇い止めにあうのは自分のみか、他の人はどうなるのかと相談者が上司に尋ねたところ、他の従業員の取り扱いを説明する義務はない、弁護士にもそう言われたとの回答があった。

 

会社回答は何か変だ。

本件は事業縮小を理由とする整理解雇事案だ。

たとえ業務上の必要性があっても、使用者は自由に有期契約社員を雇い止めできるわけではない。

 

日立メディコ事件最高際判決(1986年12月4日)がある。

最高裁は、契約更新について一定の期待権を有するにいたった有期契約労働者の雇い止めにも解雇権濫用法理を適用すべきであると判示した。

この判例法理は2012年の労働契約法改正により法律上明文化(労働契約法19条2項)された。

 

したがって、契約社員にも解雇権濫用法理の整理解雇への適用法理としての整理解雇の4要件(①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続きの妥当性)も適用されることになる。

かりに人員整理について経営上の何らかの必要性が認められるとしても、恣意的な雇い止めが許されるわけではない。

 

本件事例において、契約社員全員の雇い止めなのか、一部のみの雇い止めなのかは、相談者に対する雇い止めの適法性を判断するに際して重要な判断要素となる。

その点について説明の必要性はないとの会社回答は到底納得できるものではない。(直井)

 

 

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☆雇止めの予告義務と更新拒否の正当事由☆

2か月間の有期契約で働いていた派遣社員から相談があった。

4月1日入社後2回更新されたが、3回目の契約期間満了日(9月末日)の直前に勤務成績不良のため更新しないと通告された。

 

2回目の更新時に交付された更新契約書(労働条件通知書)には「更新あり」の記載があったこと及び勤務成績不良の説明に納得できないことから、相談者は弁護士に相談したところ、弁護士は、雇用期間がいまだ1年未満だから、争っても無駄だといわれたとのことだ。

 

弁護士は、更新拒否の予告義務の発生基準と更新拒否の正当性の判断基準とを混同していると思われる。

 

すなわち、使用者は、有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて雇用されている労働者にかかる有期労働契約を更新しない場合には、契約の期間が満了する30日前までに、その予告をする義務がある(平成15年厚労省告示357号「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」)。

 

他方、労働契約法19条は、労働者が更新を期待することについて合理的な理由がある場合に使用者が当該労働者の更新の申込みを拒否することに対して、解雇制限法理に準ずる高いハードルをもうけている。

更新により長期間働くことを前提として契約したときなど更新を期待することに合理的な理由がある場合、納得できない更新拒否はたとえ雇用期間が短期間であっても争うことができる。

 

納得のできない更新拒否にあったら、泣き寝入りしないで異議を申し立てよう。(直井)

 

 

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☆更新拒否通知後の無期転換申込権の行使☆

庶務業務担当の契約社員として更新を重ね6年間近く勤務を継続してきたが、現在の契約の期間満了日の1か月ほど前に勤務成績不良を理由として次回は更新はしない旨口頭による通知があったとの相談があった。

相談内容は更新拒否の理由に納得できないということとともに、今からでも無期転換の申し込みはできないかというものであった。

 

労働契約法18条は、有期労働契約の契約期間が通算して5年を超える場合、労働者に無期契約への転換の申込権が発生すると定める。

申込の時期については、「現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に」と定めるのみで特に制限を定める規定はない。

したがって、会社から更新拒否を通知された後であっても、契約期間の満了日までは無期転換の申し込みはできる。

 

また、常に更新がなされるかどうか不安定な状況に置かれている有期雇用労働者の地位の保護という労働者18条の趣旨から、無期転換申込権の事前の放棄の合意は公序違反(民法90条)と評価され無効となる。

もっとも、無期転換権が発生した後に労働者はそれを放棄することは、労働者の自由な意思に基づいているものであれば、必ずしも公序違反と評価されるものではない。

 

本件は、相談者が無期転換申込権を放棄したと認められる特段の事実も認められないことから、契約期間満了日前までに文書による無期転換の申込をしたうえで、更新拒否ないし不当解雇を争うことをアドバイスした。(直井)

 

 

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☆試用期間と有期雇用☆

6か月の有期雇用の期間満了による契約終了を言い渡されたIT技術者から相談をうけた。

相談者は正社員としての雇用を希望して採用に応募した。

始めは試用期間として6か月間の有期雇用契約を締結するということになり、雇用期間6か月の契約書を取り交わした。

 

採用時に取り交わした契約書は単に雇用期間6か月間と記載のあるもので、試用期間としてのものであるとの記載はなかった。

その後、試用期間は1度6か月間延長されたが、延長後の契約期間満了前に突然契約期間満了による契約終了を言い渡された。

 

試用期間として有期契約を利用する例は少なくない。

使用者は通常の試用期間とは違って、有期契約としての試用期間ならば期間満了を理由として解雇(雇い止め)が容易であると考えているのであろう。

 

しかし、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解される(神戸弘陵学園事件最高裁判決)。

 

試用期間か否かは、契約の形式ではなく実態で判断するのが裁判所の立場であり、有期雇用が試用期間であると判断される場合は、単に期間満了を理由とする解雇は許されない。

本採用を拒否する合理的な理由が必要である。

 

本件においては、あくまで本採用拒否(正社員にしないこと)の理由を明らかにするように会社に求めるようにアドバイスをした。(直井)

 

 

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