☆従業員兼務取締役の解雇問題☆

相談者は、社長と従業員3名で事業を運営している軽貨物運送会社で管理的業務を含め事務全般を担当していたところ、社長から請われて取締役に昇任した。

給与は役員報酬と変わったが、担当する業務内容にはとくに変更はななかった。

本件会社は、株式会社ではあるが、実質は社長が発行済み株式のすべてを所有する個人事業だ。

 

1年ほどは社長との関係もうまくいっていたが、事業の拡大にともない会社の運営方針をめぐり社長と意見対立が目立つようになったことから、取締役は降りることになった。

当初の約束どおり従業員に戻るつもりでいたが、社長は、信頼関係が壊れた以上、従業員に復帰することは認めないという。

どうにかならないかという相談があった。

 

本件は、従業員兼務取締役の解雇問題だ。

「従業員兼務取締役」とは、肩書上の地位が「取締役」でありながら、同時に一般の従業員としても評価できる人のことをいう。

「取締役」と会社との関係は「委任契約」であり、「労働者」と会社との間の「労働契約」とは異なるが、従業員兼務取締役は、実質的には委任契約と雇用契約が併存した状態といえる。

 

実質は個人事業のような会社では、取締役とは名ばかりで、主として従業員の業務を行っている場合がある。実態上、会社代表者の指揮命令を受けて労務に従事し、その労務に対して従業員としての報酬Mを受けていると認められれば、労働契約法上の「労働者」に(も)当たることになる(菅野和夫「労働法」(第12版)182頁)。

 

労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定し、会社の恣意的な解雇を厳しく制限している(「解雇制限法理」)。

 

従業員兼務取締役には、従業員としての地位に基づいて労働契約法16条の解雇制限法理が適用される。

したがって、役員を辞任しても(ないし解任されても)、従業員としての地位は失われることはなく、解雇相当となる理由がない限り、賃金支払いなどの保護を継続してうけることができる。

 

社長のいう「信頼関係が壊れた」は委任契約の解約の理由とはなるが、労働契約の解約理由としては不十分といわざるを得ない。(直井)

 

 

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☆講師の個人事業主扱いの見直し☆

楽器大手ヤマハの子会社が展開する「ヤマハ英語教室」の講師でつくるヤマハ英語講師ユニオンは、会社側が、個人事業主扱いにしていた講師との委任契約を見直し、直接雇用する方針を組合に提示したと発表した(20年6月8日「読売新聞オンライン」ほか)。

 

勤務場所や勤務時間、仕事の進め方などについて会社に管理され、働き方の裁量がほとんどない労働者が業務委託契約・委任契約など労働契約以外の契約を締結して個人事業主として労務を提供とする働き方がある。

「名ばかり事業主」である。

働き方の多様化という喧伝の下、学習塾の講師や配達員など様々な職業で「名ばかり事業主」が増えている。

 

コンビニ店長などの「名ばかり管理職」は、残業代の支払い義務を免れる目的で企業により多様されたものだった。

「名ばかり事業主」も同様に労働法規の保護規定を免れる目的で企業により使われている。

労基法上の残業代はもとより、社会保険、労働保険の保険料の支払い義務を免れるメリットが使用者にある。

 

そもそも、労働者概念の基本である労働基準法上の労働者にあたるか否かは、契約の形式ではなく、労務提供の実態で判断されるものである。

使用者の指揮命令下で労務を提供しているか否かが判断基準となる。

しかし、裁判所の判断を仰ぐためには時間とお金がかかるため労働者個人で争うことは事実上困難だ。

 

本件の特徴は、委任契約という働き方の形式に疑問をもった講師が仲間を集め労働組合を結成して直接雇用化を求めての1年にわたる交渉の結果であることにある。

コロナ騒ぎは仲間を増やす追い風となった。

コロナ騒ぎのなかでさまざまな救済措置からもれ落ちる働き手がある。

 

労基法の定める休業手当はもらえず、さりとて税法上は給与所得者として扱われているため個人事業主を対象とする持続化給付金の対象ともならない。

コロナ禍は制度の谷間にある無権利な働き方を顕在化させた。

このことがより多くの仲間を集めることになり、結果として会社の譲歩を引き出したといえる。(n)

 

 

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☆小さなバーの雇われママの悩み☆

小さなバーの雇われママから相談があった。

現在、コロナ禍のなかオーナーの指示で4月以来休業中である。

 

オーナーは事業者向けの「持続化給付金」や「家賃補助」の申請をしている。

しかし、会社が働き手に休業手当を支払う費用を支援する雇用調整助成金を申請するつもりはないという。

 

オーナーとは形式的には業務委託契約を結んでいる。

報酬は、基本給プラス歩合給だ。

営業日(月曜日から土曜日)や営業時間(19時30分から24時)がオーナーに指示されていることなどから、実質的にはオーナーの指揮命令下で働いている労働者といえる。

 

ママの相談は自分は休業下でどのような法的な保護を受けられるのかということであった。

事業主は、ママは個人事業主だから労働基準法の定める休業手当の対象とはならないし、休業手当を払うつもりはないという。

 

休業手当を受け取れない人が直接ハローワークに申請して受け取れる給付金が新設されるとのことだが、その場合、形式にせよ、労働契約ではなく業務委託契約が締結されていることが支障となるおそれがある。

また、実質的には労働契約であると解されることから、フリーランス(個人事業主)として持続化助成金の申請をするのも、ハードルが高そうだ。

 

形式は業務委託契約、実態は労働者であるいう働き方を強いられている者は少なくない。

今回のコロナ禍は、制度の狭間にあり、労働法の保護から排除された働き手の無保護状態をより顕在化させたといえる。(直井)

 

 

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☆業務委託で働くマッサージ師の疑問☆

マッサージサロンとの間で締結した業務委託契約に基づき働くマッサージ師から相談があった。

お客からサロン運営者である本部にクレームがあり、その調査のため3週間サロンで働くことを禁じられた。

 

調査の結果、問題となる行為は認められなかったことから、今は業務に復帰しているのだが、働けなかった3週間の休業補償がないとの相談だ。

報酬は売上げに見合った歩合制ではあるが、シフトに従って週4日勤務し、サロンで働く時間帯も決められている。

 

労働基準法の適用があれば、最低限6割の休業手当(同法26条)が補償されることになる。

取り交わした業務委託契約書には、労働基準法ほか労働関係法の適用を受けないことを明記した条項がある。

しかし、本件のような「業務委託契約書」を取り交わしていたとしても、そのこと自体から直ちに労働基準法上の労働者に当たらないと判断されるわけではない。

 

労働基準法上の「労働者」であるか、業務委託契約における独立した「個人事業主」であるかは、契約の形式いかんにかかわらず、実質的に判断される。

すなわち通常の契約の当事者間における対等な関係ではなく、実質的に契約の相手方に従属している関係(「使用従属性」)があれば労働基準法上の労働者であると判断されることになる。

 

「使用従属性」が認められる具体的な要素としては以下のものがある。

・仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がないこと、

・業務遂行上の指揮監督の程度が強いこと、

・勤務場所・勤務時間が拘束されていること、

・報酬の労務対償性があること、

・機械・器具が会社負担によって用意されていること、

・専属制があること、

 

相談者には以上のことを説明したうえで、労働基準法上の労働者に当たる可能性が高いので諦める必要はないことをアドバイスした。

労働者保護法の規制を免れるため労働者を個人事業主として業務委託契約で使用する使用者はあとをたたない。

多様な働き方(=多様な働かせ方)のほとんどは労働者のためのものではなく、使用者のためのものだ。

 

コロナ一斉休校がらみの休職者助成制度として、政府は、労働契約に基づく労働者(上限1日8,330円)とは別にフリーランス(個人事業主)向けの低額枠(定額1日4,100円)を用意するようだ。

政府の一斉休校要請に伴う休職者への補償を目的とする措置ならば、契約の形式で区別することにどの程度の合理性があるのか疑問だ。(直井)

 

 

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