相談者を含め社員3名の小さなデザイン会社で働く従業員からの相談があった。
社長から突然、経営不振および相談者の能力不足を理由として賃金の切り下げを言い渡された。
突然のことで反論もできないまま「分かりました。」と答えざるを得なかった。
後になって冷静に考えてみると給与減額には納得できないとの相談である。
労働条件の不利益変更は使用者が一方的に言い渡せるわけではない。
労働契約法8条は、「労働者及び使用者は、その合意により、労働条件を変更できる」と規定する。
労働者との合意抜きの使用者の一方的な給与減額通告には法的効力はない。
次の問題は「分かりました」という返事をもって労働者が合意した解されるか否かである。
労働者の合意の認定方法の問題である。
合意は労働者の自由な意思に基づくものであることが前提となる。
契約関係一般では当然の建前であるが、労働契約は、使用者と労働者との間の交渉力格差が非常に大きいため、実際は使用者の一方的通告によって不利益変更される例が少なくない。
交渉における労使の実質的対等を実現するためのものとして、法は、労働組合による集団的交渉制度を用意しているが、労働組合の組織率が低下した現在、労働組合法制だけに頼ることはできない。
裁判実務においては、労働条件の不利益変更に対する労働者の合意の認定に際して、使用者との交渉力の違いを考慮した上で、厳格、慎重な判断がなされる傾向がある。
本件における労働者の「わかりました。」は社長が言っていることは理解しましたという意味で断じて賃金切り下げに同意したという意味と解されるものではない。(直井)
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