不当解雇された相談者からの数ある質問のひとつに解決金はいくら取れるかというのがある。
職場復帰ではなく金銭解決を望んでいる場合である。
事案(正社員か契約社員か、勤続期間の長短、解雇の悪質性など)により千差万別だと答えるしかない。
しかし、それでは答えにならないであろう。
実際の解決金額は相手である使用者との交渉の結果であることから幅が大きい。
しかし、ほっとユニオンの要求額には一定の方針がある。
以下において、取り扱い件数が比較的多い勤続期間が短い案件についていままで経験した具体的な事例をもとに要求額を整理をしてみることにする。
・入社直後の解雇
入社から試用期間中14日以内までならば解雇予告が不要であることから(労基法21条4号)、解雇が自由にできると誤解している使用者は少なくない。
しかしながら、労基法20条の解雇予告(ないし解雇予告手当)と労働契約法16条の定める解雇の有効要件(客観的合理的理由と社会通念上相当性)とは全く別の次元のものだ。
試用期間中であっても解雇の有効要件を定めた労働契約法16条の適用はある。
・入社1か月以内の解雇の解決金
個人経営のクリニックや会計事務所など小規模な事業所で多く見られる解雇案件である。
この場合、解雇日から和解成立日までの間の賃金相当額(バックペイ)に加えて賃金の1か月分から3か月分を要求する事例が多い。
ただし、新卒新規採用の場合は解雇のダメージが大きいことから、請求額は最低でも6か月分となる。
・入社6か月以内の解雇
この解雇にあっては試用期間満了など試用期間を理由とする解雇が多い。
しかし、試用期間であっても労働契約法16条の解雇の有効要件は求められる。
この場合、バックペイ+賃金の3か月分から6か月分が要求額となる。
・入社後6か月から1年以内の解雇
この場合、バックペイ+賃金の6か月分が要求額となる。
・入社後数年勤務している場合は、1年分の賃金相当額を要求することになる。
なお、解雇予告手当が支払われているときは、支払われた解雇予告手当をバックに充当する計算となる。
以上は一応の基準であり、実際には個々の事情に応じて対応することになる。(直井)
事務を処理する速度が遅いなど能力不足を理由に解雇を言い渡された事務職員から相談があった。
相談事は不当解雇についてではなく、能力不足の理由による会社都合退職は転職活動に不利になるかとの心配であった。
転職先の採用面接において、離職理由を尋ねられたときの対応の相談です。
相談者は退職会社がハローワークに提出する書類を気にしていた。
しかし、会社が被保険者資格喪失届とともにハローワークに提出する離職証明書(離職票)には単に離職理由欄の「解雇(重責解雇を除く)」にチェックが入るのみで、具体的な離職理由は記載されません。
そもそも、採用面接で離職票の提示を求められることはありません。
また、かりに転職先の会社が退職会社に離職の事情を問い合わせても、従業員の個人情報であることから、退職会社が照会に応ずることは通常は考えられません。
採用面接で前職の退職理由を聞かれたら、社長(上司)と折り合いが悪くなり転職を進められたこともあり退職することになったなど、当たり障りのない理由を述べれば足ります。
それ以上、事細かに追求する面接官はいません。
もっとも、採用面接で積極的な嘘をつくことはお薦めしません。
横領など理由とする懲戒解雇などの不名誉な退職事由でなければ、会社都合退職(普通解雇)であることを必要以上に気にすることはありません。(直井)
不当解雇についての相談は多い。
解雇は違法・不当で納得ができない、しかし、いまさら職場に戻るつもりはないという相談者は少なくない。
復職ではなく、損害賠償(慰謝料)を請求したいという相談である。
法律的にいえば、労働契約法16条(解雇)を根拠に解雇の無効を主張して従業員としての地位の確認(復職)を求めるのではなく、民法709条(不法行為)を根拠に解雇が違法な権利侵害である不法行為に当たるとして損害賠償(慰謝料)を請求したいということである。
しかし、復職までは求めないという相談者に対しても、とりあえずは、解雇無効を主張して従業員としての地位の確認(復職)を求めることを勧めている。
結局、金銭解決で終わるとしても、このほうが労働者に有利だからである。
裁判所において、解雇が不法行為に当たると主張し損害賠償(慰謝料)を請求する場合、原告(労働者)が解雇が不法行為に当たることを証拠に基づいて証明する必要がある。
労働者が十分な証拠を持っていない場合は勝訴は事実上困難な場合もある。
一方、解雇無効を主張する場合、解雇に客観的に合理な理由があること、かつ、社会通念上相当であることについて、立証責任を負うのは使用者である(労働契約法16条)。
労働者は解雇された事実だけを主張・立証すれば足りる。
裁判手続において客観的な証拠が十分でない場合、立証責任をどちらが負うかは、決定的な違いとなる。
事実を証拠に基づいて証明できない場合、立証責任を負う側が敗訴することになる。
当然、このことは裁判外での交渉にも影響を与える。
裁判外の交渉においても、交渉が決裂して裁判手続に移行した場合どうなるかを、使用者も頭に入れて交渉に応じるからだ。
すなわち、復職ではなく金銭解決を求めるにしても、とりあえず解雇無効を主張して復職を求めるほうが、使用者に与えるプレッシャーはより大きいものとなる。
また、交渉により得られる金銭解決の水準も結果として高いものとなる。(直井)
ユニオンを脱退したい、どのようにすればいいのか、との相談を受けた。
ユニオンへの相談としては異例のものである。
ほっとユニオンは他のユニオンの案件には介入しない方針である。
相談者の話しは概ね以下のとおりである。
訪問介護事業所でヘルパーとして勤務していたところ、社長から突然解雇を言い渡された。
納得できないので、帰宅後、ネットで無料相談を捜した。
はじめにみつけた弁護士事務所での無料電話相談のやりとりは以下のとおりであった。
月額25万円の給与であること及び簡単な解雇の経緯を説明したところ、100万円はとれる案件だといわれた。ただし、弁護士費用として着手金20万円と成功報酬(獲得した金銭の20%)はかかるとのことであった。
着手金20万円に躊躇した相談者は、さらにネットを検索し、無料を謳っている○×ユニオンのホームページがヒットした。
電話での相談の後、会社に対し具体的に交渉を始めるには組合に加入する必要があるといわれた。
メールで送信された加入用のulrをクリックすると組合加入申込書の書式が表示された。
そこに氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどを記載して送信した。
解決金の30%を義援金として支払うことへの同意を求めるチェック欄にも同意のチェックをいれた。
その後、交渉担当者を名乗るA氏から電話があり、社長への連絡方法などを尋ねられた。
そして、A氏は社長と電話で交渉を始めたようである。
しかし、社長の対応は堅く、解雇言い渡しの際に相談者に支払いをほのめかした給与1か月分(25万円)以上のものは出せないということになった。
それも3回の分割払いだという。
相談者はそれでは最初の社長の提案と額が同じであること、分割ということでは条件はむしろ低下していることから、再度の交渉をA氏に依頼した。
A氏は怒りだし、「自分では出来ないから代わりに交渉をしてやっているのになんだ」、「なんなら降りてもいい」と逆ギレされたという。
労働組合は、一人では弱者である労働者がお互いに助け合う共助の組織だ。
組合の担当者の顔も見ないで、メールと電話のやりとりだけで、交渉を丸投げするのは安易に過ぎる。
どっちもどっちだという気もする。(直井)
辞めてくれないかといわれた、解雇されると履歴が汚れるので解雇は避けたい、解雇を言い渡されるくらいならば退職することを考えている、しかし、離職票には自己都合ではなく会社都合として記載して欲しいという相談があった。
解雇されたら履歴が汚れる。
転職への悪影響が心配だ。
転職の面談の際、前職の離職理由を解雇といいたくない。
以上のように考える労働者は少なくない。
使用者は、従業員のこのような不安を逆手にとって、退職に応じないならば、解雇すると脅し、執拗に退職願いへの署名・押印を求める。
しかし、使用者の狙いは、後で解雇の適法・違法が争われるリスクを避けることにある。
他方、何事も金銭換算したコスパ・損得で判断したがるネット情報の影響か、離職票の記載に会社都合を求める労働者は多い。
会社都合の離職が失業手当の給付において有利であるからだ。
転職など自己の都合により離職した場合は7日間の待機期間にプラスして給付制限期間(3か月)がある。
解雇など会社の都合により離職した場合は受給資格決定後7日間の待機期間が経過すれば給付を受けられる。
収入の道をたたれた退職者にとって3か月間も給付を待たされることのダメージが大きい。
解雇の不名誉は避けたい、他方、失業手当の関係では会社都合(解雇、退職勧奨など)としたいと考えているのが退職を迫られた多くの労働者の本音といえる。
そのため、ほっとユニオンは、解雇が争われた案件の和解において解雇撤回・円満退職で解決した場合、「会社都合による退職」という文言を合意書に入れることにしている。
しかしながら、そもそも、非行行為などを理由とする懲戒解雇でないかぎり、解雇を言い渡されることは労働者にとって必ずしも恥ずべきことではない。
納得できない解雇ならばなおさらである。
弱気にならず、納得できないならば、安易に退職願いへの署名・押印はしないで、まず、専門家に相談することを薦める。
安易に任意の退職に応じないことによって、同じ辞める結果になるとしても、使用者の譲歩を引き出し、より有利な退職条件を得ることが可能になる。
強いことを言っても、使用者の本音は訴訟リスクを回避するために解雇を避けることにある。
使用者にとっても正式に解雇を言い渡すことは怖いものなのです。(直井)