突然解雇を言い渡された。
解雇に納得ができないことから労働基準法22条に基づき解雇理由証明書の交付を使用者に求めたら、今度は説明なしで一方的な解雇撤回の通知があった。
解雇言渡しまでの経緯、及び説明なしの一方的な解雇撤回の通知などから、使用者への不信感がつのっている。
どのように対応すべきか戸惑っているとの相談があった。
解雇の言い渡しの撤回は、契約の解除の意思表示にあたるところ、民法(520条2項)は、解除の意思表示は、撤回することができないと定める。
したがって、解雇の言い渡しの撤回は、使用者による一方的な行使は許されず、労働者の承諾が求められる。
現実には、使用者による解雇撤回を受け入れ復職する労働者は多い。
この場合、解雇言渡しから解雇撤回まで就労できなかった期間の給与の支払い義務を使用者は免れることはできないことは当然である(民法536条2項)。
しかし、恣意的な解雇・一方的な解雇撤回という納得できない対応をした使用者に対する不信感などから復職に不安を感じる労働者も少なくない。
そのような労働者には、安心して働けるための復職条件の明示を使用者に求めることをアドバイスしたい。
明示を求める復職条件としては、復帰時期、復職後の部署、賃金切り下げなど不利益な取り扱いのないことの約束、職場の人間関係を含めた職場環境の整備などが考えられる。
なお、使用者側の事情で復職環境が整わないことから就労できなかった期間について、使用者が賃金支払い義務を免れないことは、解雇撤回までの不就労期間についてと同様である。(直井)
YouTubeなどSNSを宣伝に活用する会社は少なくない。
次のような相談があった。
事務職として採用された女性が受付業務に従事していたところ、女性の顔が写っている事務所の受付風景がYouTubeにアップされていることに気づいた。
女性は自分の顔がSNS上に晒されることに不安を感じ、社長に削除を申し入れたところ、社長は、YouTubeなどSNSは会社の重要な宣伝手段だ、SNSへの顔出しができないならば辞めてもらうほかない、と逆ギレした。
どうにかならないかとの相談だ。
容貌はその人を特定できる要素であることから重要な個人の情報です。
自己の情報をコントロールする権利(プラバシー権)として、SNSへのアップは拒否することはできます。
使用者といえども、従業員の容姿等を勝手にSNSにアップすることは、プライバシー権としての肖像権(みだりに自己の容姿等を撮影され、これを公表されない権利)の侵害にあたります。
無断でSNSへアップされたものの削除を求めることもできます。
当然ながら、SNSへのアップを拒否したしり、アップされた画像の削除を要求したことで、解雇など不利益取り扱いをすることは許されません。
SNSへのアップ拒否が正当な解雇理由となりえないことは論をまたない。(直井)
相談者は、社長と従業員3名で事業を運営している軽貨物運送会社で管理的業務を含め事務全般を担当していたところ、社長から請われて取締役に昇任した。
給与は役員報酬と変わったが、担当する業務内容にはとくに変更はななかった。
本件会社は、株式会社ではあるが、実質は社長が発行済み株式のすべてを所有する個人事業だ。
1年ほどは社長との関係もうまくいっていたが、事業の拡大にともない会社の運営方針をめぐり社長と意見対立が目立つようになったことから、取締役は降りることになった。
当初の約束どおり従業員に戻るつもりでいたが、社長は、信頼関係が壊れた以上、従業員に復帰することは認めないという。
どうにかならないかという相談があった。
本件は、従業員兼務取締役の解雇問題だ。
「従業員兼務取締役」とは、肩書上の地位が「取締役」でありながら、同時に一般の従業員としても評価できる人のことをいう。
「取締役」と会社との関係は「委任契約」であり、「労働者」と会社との間の「労働契約」とは異なるが、従業員兼務取締役は、実質的には委任契約と雇用契約が併存した状態といえる。
実質は個人事業のような会社では、取締役とは名ばかりで、主として従業員の業務を行っている場合がある。実態上、会社代表者の指揮命令を受けて労務に従事し、その労務に対して従業員としての報酬Mを受けていると認められれば、労働契約法上の「労働者」に(も)当たることになる(菅野和夫「労働法」(第12版)182頁)。
労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定し、会社の恣意的な解雇を厳しく制限している(「解雇制限法理」)。
従業員兼務取締役には、従業員としての地位に基づいて労働契約法16条の解雇制限法理が適用される。
したがって、役員を辞任しても(ないし解任されても)、従業員としての地位は失われることはなく、解雇相当となる理由がない限り、賃金支払いなどの保護を継続してうけることができる。
社長のいう「信頼関係が壊れた」は委任契約の解約の理由とはなるが、労働契約の解約理由としては不十分といわざるを得ない。(直井)
就業規則において病気休職を命ずる前に一定の欠勤期間の継続を要件とする例が多い。
メンタルを病んで休職中の相談者の会社の就業規則の規定は以下のとおりである。
「(休職事由)第27条 社員は次の場合休職を命じられます。(1)業務外の傷病のため欠勤が引き続き3か月に及んだとき。(2)業務上の事由または通勤による傷病のため欠勤が引き続き3か月に及んだとき。(3)会社が、医師の診断に基づき、社員の身体または精神が業務遂行にたえられない状態と判断したとき。」
本件は、提出された医師の診断書により療養に相当長期間を要すると判断されたことから、定められた3か月間の欠勤期間に達する前に命じられた休職の効果が問題となった。
相談者は通常の休職(1)と同様な取り扱い(休職期間上限3年間、うち2年間は給与7割支給)を求めた。
これに対して会社は、本件は例外的に会社判断で認めた休職(3)なので本来の休職期間の上限3年間、うち2年間の給与7割支給の規定は適用はないとのものである。
休職とは、業務外での傷病等主に労働者側の個人的事情により相当長期間にわたり就労を期待し得ない場合に、労働者としての地位を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な取り扱いをいう。
業務に起因する傷病の場合は労働基準法などに解雇制限などの労働者保護の規定があるが、業務外の傷病を理由とする休職については、休職期間、復職等についての法の定めはない。
具体的な取り扱いは労働契約や就業規則の定めによることになる。
就業規則において病気休職の要件として当該傷病を理由とする一定期間の欠勤の事前継続を要件として定める例が多い。
厚生労働省労働基準局監督課によるモデル就業規則は休職ついて以下のとおり規定する。
「(休職)第9条 労働者が、次のいづれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
①業務外の傷病により欠勤が○か月を越え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき ○年以内、
②前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき 必要な期間」
労働契約は労働者が労務を提供する義務を負い、使用者が賃金を支払う義務を負うという双務契約である。
労働者が労務を提供する義務を履行できない場合は、使用者は契約を解除(解雇)できることになる。
ただし、労働者の安定した生活を保護するために合理的な理由のない解雇は無効とされる(労働契約法16条)。
療養中の解雇は、療養のため労務を提供できないことが解雇の合理的な理由となるかが争われることになる。
裁判においては、回復するまでもう少しの期間を待てないのかが争点となる。
なお、業務に起因する傷病の場合は療養期間中の解雇は禁じられている(労基法19条)。
数ヶ月程度の比較的短期間の療養中の解雇は、長期雇用慣行を重視する裁判所では合理的な理由のある解雇とは認められない可能性が高い。
一般に病気休職の要件として定められている事前の欠勤期間は、裁判所では解雇は認められないと考えられている程度の短期間であることが多い。
判断が難しいのは、予想される療養期間が1年に及ぶなど相当長期間に及ぶ場合である。
傷病休職制度は、一定期間解雇権の行使を猶予する代わりに、一定期間経過しても復職できない場合は解雇できる(ないし退職扱いとする)とする労使間の約束を定めたものといえる。
すなわち、傷病休職制度は、療養中の一定期間解雇を制限する解雇猶予制度としての意味がある。
また、猶予期間を明確にすることによって療養期間中の解雇をめぐる無用な争いを防止する機能が期待される。
休職の要件としての事前の欠勤期間は、傷病の療養のためどのくらいの期間を要するかを判断するための期間と考えられる。
そうとすると、欠勤期間経過前に療養が相当長期間に及ぶと医師の診断等により判断される場合は、欠勤期間経過前に休職の発令をすることは、労働者に不利となる特段の事情がないかぎり、許されると解される。
本件相談事例においては、3か月の欠勤期間の経過前に言い渡された休職命令は有効だが、休職期間及び有給期間を任意に短縮する取り扱いは許されない解される。(直井)
解雇を撤回され出社を会社から求められた、困惑しているとの相談を受けた。
復職したくない、どのように対応したらいいかという相談である。
話を聴くと、以下の事情があった。
弁護士に依頼して不当解雇の撤回を求める内容証明郵便を郵送した。
しかし、相談者の本音は、復職ではなく金銭解決を求めることにあった。
弁護士からは、はじめから金銭解決(損害賠償)を求めるのではなく、まずは解雇無効を主張して復職を求めたほうが交渉上有利だとアドバイスをうけた。
弁護士のアドバイスに従ったが、それが裏目にでたということだ。
原則として、解雇の意思表示が労働者に到達した後は、使用者がこれを一方的に撤回することは許されない(民法540条2項)。
ただし、従業員の同意があれば話は別です。
本件の場合、従業員が解雇の撤回を求めていたことから、同意があったと解される。
正当な理由なく出社を拒否すれば、それを理由に改めて解雇を言い渡されるリスクがある。
撤回日以降の賃金を請求することも難しくなる。
したがって、いったん復職をして様子をみる以外ないように思える。
しかし、どうしても復職をしたくないのならば、解雇日から撤回日までの未払い賃金の支払いを受けて退職するのも一つの選択肢だ。
ただし、出社前に以下のような復職条件についての交渉をする余地はある。
・撤回日から復職指定日までの期間が短い場合、出社準備のための期間を求めること。
・復職後の就労場所、就労条件が明確でない場合、会社に説明や協議を求めること。
・解雇日から撤回日までの賃金の取り扱いについて不明の場合は、撤回までの未払い賃金の支払いを求めること。
復職条件の交渉がまとまらないうちは、会社の受領拒否が続いているとしてその間の賃金を請求することも可能です。
なぜなら、解雇の撤回により、それ以降の賃金が発生しないというためには、その前提として、会社が労務を受領しないとの態度を改めて、受領拒絶状態を解消する措置を講じる必要があるとされているためです。(直井)