☆使用者による有給休暇の時季指定義務☆

労働基準法の改正(労基法39条7項8項新設。2019年4月1日施行)により、年次有給休暇のうち5日間については、使用者に積極的な付与義務(時季指定義務)が課された。

さらに従業員ごとに年休の年休の取得日、取得日数などを記載した年次有給休暇管理簿の作成・保管も義務づけられた(施行規則24条の7)。

 

1947年の労基法制定以来、年次有給休暇を取る基本的な仕組みは、年休付与義務を負うのは使用者だが、年休をとる時季を指定をするのは労働者だというものだ。

すなわち、先ずはじめに時季指定という労働者の積極的な行為がなければ、年休取得のための手続きは始まらない仕組みだ。

使用者には労働者に希望する時季を聴取するなど積極的に年休の取得のための環境を整備する義務はない。

 

したがって、うちの会社には年休制度がないと労働者が労基署に相談にいっても、まず、労働者自らが時季指定行為をして、それに対する使用者の拒否行為がなければ、労基署としては対応のしようがないと追い返されることになる。

事実上取得していないこと、事実上取得できないこと自体は、労基法の直接関与するところではない。

使用者の拒絶反応が予想されるなか、あえて年休を申請して拒絶されるというリスクをおかさなければ、労基署が対応する案件とはならない。

 

確かに法の定める要件が満たせば、特に何の手続きを要しないで法定の日数の年次有給休暇は発生する。

しかし、40日の有休休暇を持っているといっても、現実に使用しなければ、何の足しにもならない。

取得手続きについての法の定めは重要だ。

 

年休取得手続きにおいて使用者は労働者の時季指定を待つという消極的な位置づけであることが労基法の基本的態度である。

労働者が時季を指定して請求することに対して使用者が妨害することが違法とされる仕組みである。

このため、事実上権利行使ができない職場は労基署の指導もなくそのまま残されていた。

 

個人経営の小規模な事業所では、従業員の必要に応じて適宜使用者が恩恵として休むことを認めるなどの個別的な対応をとるところがある。

シフト制を採用している事業所においては、シフトの調整時に従業員の休みの希望日(勤務を要しない日)を聴いているのだから、年休は必要がないと公言する経営者もいる。

年休を取得する慣行もなく手続きも整備されていない職場にあっては、使用者との軋轢が予想されるなか、労働者が年休取得のための時季指定行為をするのは事実上高いハードルがある。

 

労基法改正は年休取得手続きのなかの一部に使用者の積極的行為(時季指定行為)を組み込んでそれを使用者に義務づけるものだ。

新制度は3月末日で施行後1年が経過することになる。

年休の取得率はどの程度上昇したのか、はたまた上昇しなかったのか、政府の報告を注視したい。(直井)