厚生労働省は昨日(8月28日)、新型コロナウイルス対策で拡充されている雇用調整助成金の特例措置を、現行の助成率や上限額のまま12月末まで延長すると正式に発表した。
雇用調整助成金は、仕事がない時に雇用を維持して従業員を休ませた企業に対し、従業員に払う休業手当の費用を支援するものだ。
現在、特例措置により4月~9月は、中小企業向けの助成率を最大100%に、1日あたりの上限額を1万5千円に引き上げている。
この特例措置が12月末まで延長されることになる。
また、休業手当を払ってもらえない中小企業の休業者向けの給付金も、同様に12月末まで延長される。
新聞報道などでは特例措置の対象期間の延長にかかわる報道はあるが、意外と見落とされがちなのは申請手続きに関する情報である。
対象期間の延長だけでなく、申請期限の延長がなされたことも実務上は重要な情報である。
すなわち、雇用調整助成金の支給申請について、通常は、判定対象期間の末日(賃金締切日)の翌日から2か月以内に支給申請を行う必要があるが、判定基礎期間の初日(賃金締切日)が6月30日以前の休業に係るものについては、9月末日までに延長されることが厚生労働省より8月24日に公表された。
4月分と5月分の従来の申請期限8月31日が9月30日まで延長されたことになる。
いままで、忙しい、手続が面倒だと敬遠していた使用者も少なくないと思われる。
折角、申請期限が延長されたのだから、使用者が従業員のためにも積極的にこの制度を利用することを期待したい。(直井)
コロナ禍における労働相談は、当初の休業手当問題から解雇問題へとその内容が変化している。
企業が先の見通しのつかないコロナ不況に我慢しきれず、従業員の雇用に手をつけはじめたからと思われる。
従業員の非違行為や能力不足を理由とするのではなく、経営環境の悪化など経営上の理由による解雇は整理解雇といわれる。
整理解雇については、裁判例の蓄積によるいわゆる「4要件」の法理が形成されている。
すなわち、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くしたかどうか、③解雇対象者の人選基準とその適用の合理性、④労働者側との協議などの手続きの妥当性、という4点から、当該整理解雇が有効か、無効かを判断する法理である。
何の事前の説明も協議もなしに突然、ホテル部門の事業停止と全員解雇を通告されたとの相談があった。
話しを聴くと、雇用調整助成金を十分に活用しないままになされた整理解雇である。
解雇は、労働者の唯一の生活手段を奪うものであることから、経営者にとっては、あらゆる手段を尽くした後に最後にとりうる手段である。
雇用調整助成金は、従業員を休業させて雇用を守ったときの費用を国(雇用保険)が負担する国の制度である。
コロナ不況への対策として、コロナ特例措置が導入され、その後の数度の制度改正を経てずいぶん使い勝手が良くなったといわれる。
このコロナ特例の雇用調整助成金を積極的に活用すれば会社の経費負担がほとんどゼロの状態で雇用を維持できるにもかかわらず、手続きが面倒だとかの理由で、それをしないでの解雇は「②解雇回避努力義務」に違反するといわざるを得ない。
また、本件事例は、従業員との協議・相談なしの不意打ちの解雇通告によるものであり、「④労働者側との協議などの手続きの妥当性」も認められない違法・不当な解雇である。(直井)
傷病手当金の使用者証明欄を使用者が書いてくれない、離職票の交付手続をしてくれないなど使用者が法律で定める義務を履行してくれない、どのようにすれば使用者に強制できるのかという相談は相変わらず多い。
それぞれ健康保険法、雇用保険法が定める手続であり、使用者には法的義務がある。
しかし、労働者には使用者に義務の履行を強制する端的な手段がない。
手続自体の履行を使用者に求めることが労働者の権利として保障されていないからだ。
使用者は行政に対して履行義務を負うという仕組みだ。
したがって、そのような相談を受けた場合、まずは、ハローワークや保険者(協会けんぽなど)に対し、使用者が法に従って義務を履行するように指導することを求める、アドバイスをすることにしている。
それで使用者が行政の指導に応ずればことは解決するが、実際にはなんやかんやと理由をあげて、応じない使用者も少なくない。
離職票の不交付の場合は、手間はかかるが、労働者がハローワークに直接、離職の事実の確認請求をして、ハローワークの職権調査により、使用者を介さないでハローワークから直接離職票の交付を受けるという手続がある。
しかし、傷病手当金にはそのような手続はないので労働者としてはお手上げ状態になってしまう。
そのようなときは、使用者が記載を拒否した経緯を記載したメモを添えて、使用者証明欄は白紙のまま、保険者(協会けんぽなど)へ申請書一式を郵送しすることをアドバイスしている。
保険者の職権による調査を期待してのことである。
日本において労働法ほど守られていない法律はないといわれることがある。
罰則の適用がないからと高を括り、法を平気で破る使用者の横行を許せば、労働の現場は強者である使用者のやりたい放題の無法状態に陥ってしまう。
行政には法的な義務を無視する使用者に対しては職権で調査をするなど厳格な対応で望むことを期待したい。
経済的弱者である労働者を経済的強者である使用者の横暴から守るのが行政の役割であるはずだ。(直井)
ユニオンを脱退したい、どのようにすればいいのか、との相談を受けた。
ユニオンへの相談としては異例のものである。
ほっとユニオンは他のユニオンの案件には介入しない方針である。
相談者の話しは概ね以下のとおりである。
訪問介護事業所でヘルパーとして勤務していたところ、社長から突然解雇を言い渡された。
納得できないので、帰宅後、ネットで無料相談を捜した。
はじめにみつけた弁護士事務所での無料電話相談のやりとりは以下のとおりであった。
月額25万円の給与であること及び簡単な解雇の経緯を説明したところ、100万円はとれる案件だといわれた。ただし、弁護士費用として着手金20万円と成功報酬(獲得した金銭の20%)はかかるとのことであった。
着手金20万円に躊躇した相談者は、さらにネットを検索し、無料を謳っている○×ユニオンのホームページがヒットした。
電話での相談の後、会社に対し具体的に交渉を始めるには組合に加入する必要があるといわれた。
メールで送信された加入用のulrをクリックすると組合加入申込書の書式が表示された。
そこに氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどを記載して送信した。
解決金の30%を義援金として支払うことへの同意を求めるチェック欄にも同意のチェックをいれた。
その後、交渉担当者を名乗るA氏から電話があり、社長への連絡方法などを尋ねられた。
そして、A氏は社長と電話で交渉を始めたようである。
しかし、社長の対応は堅く、解雇言い渡しの際に相談者に支払いをほのめかした給与1か月分(25万円)以上のものは出せないということになった。
それも3回の分割払いだという。
相談者はそれでは最初の社長の提案と額が同じであること、分割ということでは条件はむしろ低下していることから、再度の交渉をA氏に依頼した。
A氏は怒りだし、「自分では出来ないから代わりに交渉をしてやっているのになんだ」、「なんなら降りてもいい」と逆ギレされたという。
労働組合は、一人では弱者である労働者がお互いに助け合う共助の組織だ。
組合の担当者の顔も見ないで、メールと電話のやりとりだけで、交渉を丸投げするのは安易に過ぎる。
どっちもどっちだという気もする。(直井)
大都市圏を中心としたコロナの感染拡大が止まらない。
首都圏の幼稚園に勤務する女性から夏の恒例の行事である2泊3日の研修を兼ねた高原キャンプに参加したくないとの相談を受けた。
相談者は、もともとはその時期に帰省して郷里の法事に参加する予定で有給休暇を申請していたが、コロナ感染を心配して帰省を辞めたら、園長から、帰省しないならば県外で実施される高原キャンプに参加するうように指示されたという。
高原キャンプには幼稚園の経営主体である教会関係者も多数参加する。
教会関係者でもある園長にとっては重要な行事であり、かつ、楽しみにしている夏の行事だ。
相談者は集団生活でコロナをうつすのも、うつされるもの怖い、帰った後に園児にうつすのも怖い、と感じている。
園長にコロナ感染が怖いので、高原キャンプ研修には参加したくないと申し出たら、心配しすぎだといわれたとのことである。
使用者には従業員が自らの生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務がある(労働契約法5条)。
配慮すべき「身体等の安全」には当然「心の安全」も含まれる。
コロナ感染が怖いと感じる程度には個人差がある。
当該従業員が本当に怖いと感じている以上、使用は一定の配慮をすべきだ。
そもそもこのような時期に業務命令として県外へのキャンプ研修への参加を従業員に強制できるかは疑問である。
さらにいえば、幼児を預かる幼稚園の責任者として園長の対応には問題があるといわざるを得ない。(直井)