NPO法人の運営する売店の販売員として働いていたところ、顧客対応上のトラブルから3か月間給与1割減の減給処分とともに謹慎として自宅待機を命じられたとの相談があった。
相談者は自分にも非のあることから減給処分は受け入れるつもりである。
問題は自宅待機である。
折からのコロナ騒ぎのためもあり売店は当分の間閉められることになった。
自宅待機は売店再開までの期間とし、減給は売店再開以降の3か月間と言い渡された。
使用者は「自宅待機」期間中の賃金を支払うつもりはないようである。
使用者のいう謹慎としての「自宅待機」の意味は分かりにくい。
賃金が支払われないことからすると懲戒処分のひとつとしての出勤停止処分とも解される。
この場合、減給処分との併科ということになる。
懲戒処分の併科が適法とされるためには、①就業規則に2つ以上の懲戒処分を課すことがあるとの規定があること(「就業規則上の根拠」)と②併科しなければならないほど処分対象行為が重大・悪質であること(「処分の相当性」)の2つの要件をクリアーすることが求められる。
本件についていえば、売店再開までという不定期の出勤停止処分が従業員の立場を著しく不安定にするものであることから、「処分の相当性」の要件をクリアーすることは困難である。
他方、自宅待機命令が懲戒処分としての出勤停止ではなく、コロナ騒ぎの影響で販売が減るなどの事情からの休業だと解する余地もある。
労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない、と定めている。
「使用者の責めに帰すべき事由」とは、不可抗力以外の場合と厳格に解されている。
すなわち、不可抗力とは解されない休業の場合は、使用者は休業手当の支払い義務を負うことになる。
また、緊急事態宣言の発令による休業であってもそれだけで不可抗力とは解されるわけではない。
したがって、販売不振がコロナ騒ぎの影響であっても使用者は休業手当の支払いを免れることはできない。(直井)
契約社員の雇い止めを巡る団体交渉の中で、使用者から次の提案があった。
①更新をあと1回する、だだし、期間は30日間の最後の更新とする。
②最後の更新期間中は自宅待機を命ずる。
③支払う賃金は通常賃金の6割とする。
「30日前の解雇予告」(労基法20条)と「賃金の6割の休業手当」(労基法26条)を組み合わせた提案である。
会社と従業員との間でトラブルがあった場合に、そのトラブルによる影響が他の従業員に及ぶことを防止する目的で、渦中の従業員に対し自宅待機が命じられることがある。
自宅待機命令は、懲戒処分としての出勤停止命令とは異なる。
出勤停止命令は、従業員に対する制裁として行われるものなので、就業規則に、懲戒処分の種類の一つとして定められていない限り、命じることはでない。
これに対して自宅待機命令は、トラブル拡大の防止とか、不正があったかどうかの調査といった会社の業務の必要上から業務命令として命じられるもので、就業規則に特に定めがなくても命じることができる。
ただし、自宅待機期間中の従業員に対しては、通常支払っている賃金を支払う必要がある。
この点について、「休業中は、通常の6割の賃金を支払えばよい。」と誤解している使用者もある。
くだんの使用者も同様であった。
労働基準法26条は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定める。
確かに6割の休業手当てを支払えば、刑罰の制裁のある労基法違反の責任は免れることはできる。
しかし、労基法上の責任と民事上の責任とは別の話しである。
使用者の責めに帰すべき事由によって労働者が労務を提供することができなくなったとき、労働者は当該労務提供の反対給付である賃金請求権を失うわけではない(民法536条2項)。
すなわち、労働者は、このような自宅待機期間中、6割ではなく10割の賃金を請求することができる。(直井)