ほっとユニオンは、不当解雇・未払残業代などの労働者トラブルの相談を受けたとき、まずは使用者との話し合いである団体交渉での解決を目指します。
団体交渉においてはどのような法的権利が侵害されたかなど、具体的な権利関係を踏まえた交渉を実施します。
権利関係を踏まえた交渉を重視する理由は、交渉が行き詰まったとき、次の手段として裁判所の利用を考えているからです。
ほっとユニオンは、団体交渉が不調に終わったときは、労働審判の申立てを行うことにしてます。
裁判所に争いを持ち込むためには、労働者が法的な権利を有することだけでなく、それを証明できる証拠があることが必要となります。
事案により必要な資料は異なりますが、具体的には次のような資料が必要です。
基本的な資料は労働相談の時点で持参していただけると助かります。
①不当解雇
・雇用されていたこと(雇用契約書、労働条件通知書、給与明細書)
・解雇されたこと(解雇通知書、口頭での解雇言い渡しの場合は、何時、どこで、誰から、どのように言われたかを記載したメモでも可)
・使用者の主張する解雇理由(解雇理由証明書、書面がない場合は解雇理由について使用者が発言した内容を記載したメモでも可)
②未払残業代
・労働時間の記録(タイムカードのコピー、業務日誌のコピー、パソコンのログ記録など。なお、客観的な証拠がない場合は、自分で毎日記載したメモでも可)
・支払われた賃金などの記録(給与明細書、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則のコピー)
③セクハラ
・セクハラ行為(メール、録音など。なお、客観的な証拠がない場合、いつ、どこで、誰が、どのように、とセクハラ行為を具体的に記載したメモでも可)
・被害の内容(メンタルクリニックの診断書など)
④パワハラ
・パワハラ行為(録音、客観的な証拠がない場合、いつ、どこで、誰が、どのように、とパワハラ行為を具体的に記載したメモ)
・被害の内容(メンタルクリニックの診断書など)
(直井)
固定残業代の違法運用が後を絶たない。
固定残業代とは、あらかじめ毎月の残業代(ないし残業時間)を決めておき、実際にはそこまで残業しなくても事前に決めた固定の残業代が支払らわれる仕組みである。
労働時間管理および残業代計算事務の省力化のためと説明されることもある。
居酒屋に勤めているという相談者が来た。
連日の長時間労働のためメンタル不調となり辞めたいと申し出たが、引き留められて困っているという相談であった。
話しをよく聴くと、毎日午前12時のミーティングから始まり、帰宅するのは翌日午前2時ころとの過酷な長時間労働である。休日も毎週1日のみである。
持参した給与明細をみると、基本給等19万6千円と固定残業手当4万円の記載がある。
使用者は固定残業代だけ払えば、何時間残業させてもいいと考えているようだ。
月4万円(相談事例では約28時間相当)では労基法37条等に則って計算された実際の残業時間(相談事例では約150時)に見合った残業代に遙かに及ばない。
固定残業代の適法要件については、議論がある。
事前の固定残業代(金額)の明示だけでなく、それに対応する時間の明示も必要だ、かつ、それを超えて働いた超過部分は清算するという合意ないし清算しているという実態がなければならないという最高裁判決の補足意見がある。
固定残業代の金額の明示のみで足り時間の明示まで必要でない、超過部分は清算するという事前の合意または支払っているという実態まで必要ない、との見解もある。
しかし、固定残業代を超えた超過残業部分の支払い義務が使用者にあることには争いがない。
超過残業代の清算払いをしないという運用は明確に違法である。
相談者には、断固、超過残業代を取り立てるようにアドバイスをした。(直井)
毎日10時間を超える長時間労働を強いられているにもかかわらず、残業代が全く支払われていないとの相談があった。
使用者はコンピューターグラフィックなどの制作を業とする従業員10名程度の小規模な会社である。
相談者の担当業務はゲームソフトの背景イラストレーションの作成である。
簡単に言うと、コンピューターで絵を描く仕事である。
使用者に未払い残業代の支払いを請求したら、裁量労働制だから残業代は発生しないとの社長からの回答があった。
裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度である。
確かに社長の示した雇用契約書には「裁量労働制」の文言がある。
また、「従事する業務の内容」として「デザイナー」と記載があることからすると、相談者の担当業務が裁量労働制の適用業務とされる「デザイン考案の業務」(労基則24条の2の2)にあたり、労基法38条の3が定める専門業務型裁量労働制に該当すると考えているようである。
しかしながら、本件においては、相談者の実際に従事していた業務が労働基準法の定める専門業務型裁量労働制の適用業務にあたるかについて大いに疑問がある。
また、実体的要件に疑問があるだけでなく、裁量労働制を適法に導入する手続的要件が欠けていることが明白であった。
裁量労働制を適用し、みなし労働時間による管理を行うためには、過半数労働組合(または事業所の過半数代表)と労使協定を締結することが必要である。
すなわち、労使協定で具体的に裁量労働に該当する業務を定め、その業務に必要とされる時間(みなし労働時間)を定める必要がある。
さらに、当該労使協定を労働基準監督署に届け出ることが義務づけられている。
本件において、社長は、雇用契約書に「裁量労働」と書き込みさえすれば、裁量労働制が適用できると安易に考えていたようである。
否、社長は違法と分かっていながら、労働者の弱い立場と無知につけ込んでこのような契約書を取り交わし、残業代ゼロを企んだ疑いもある。
採用時に押しつけられた雇用契約書に「裁量労働」の文言があるとしても、労働基準法が定める実体的要件や手続的要件を満たさない裁量労働制は無効である。
使用者から裁量労働だから残業代ゼロといわれても、疑問に思ったら安易に諦めず、弁護士やユニオンに相談することをお薦めする。(直井)