先日労働者(地方公務員)の懲戒免職処分とそれに付随する退職金不支給処分をめぐって最高裁の判決がありましたのでご紹介します(令和6年(行ヒ)第201号懲戒免職処分取消等請求事件 令和7年4月17日第一小法廷判決)。
<事案の概要>
地方公務員(市営バス運転手)であった労働者が乗務中に乗客の支払った運賃の一部である1000円札を運賃箱に投入せず、営業所に帰庫した際にも売上として申告せず制服のポケットに入れて着服した。
また禁煙であるバスの車内で電子タバコの喫煙を複数回行った。
これらにより懲戒免職および退職金全額不支給の処分を受けたためそれらの取消を求めて提訴した。なお当該労働者は勤続29年、乗務中の事故による懲戒戒告処分歴は複数回あるが他方無事故運転者として表彰を受けたこともあった。
<争点>
① 懲戒免職処分は適法か
② 免職が適法だとして退職金全額不支給が適法か
最高裁判所は
① につき適法
② についても適法
と判断し労働者敗訴の判決が確定しました。
<判決のポイントとなったと思われる点>
いくつもの要素が重なりあって本判決の結論が導かれたのではと筆者は考えます。
・過去の判例(令和4年(行ヒ)第274号懲戒免職処分取消、退職手当支給制限処分取消請求事件 令和5年6月27日第三小法廷判決)から行政の退職金不支給の処分に合理性があるのかないのかにより判断するある種のフレームワークがあった(不支給の判断が不合理なものでない限り肯定される)
・市営バスの運賃は公金であること
そして本件行為は利用客のバス事業への信頼を損なうものであることもありますがそれ以上に使用者と労働者の信頼関係を根本的に破壊する行為だと考えます。
バスの運転手は通常単独で業務を遂行することが想定されています。そしてその業務の内容は単にバスを運転することのみにとどまらず運賃の収受、乗客への接遇も基本的には単独で遂行することが当該市営バスに限らず民営の路線バスでも広く想定されているのではないでしょうか。
今回は直近で国内で起きた労使の信頼関係に大きく関係する事例を取り上げてみました。
働くこと、キャリアを築いていくことは結局のところどのくらいの仕事をお任せするか、任せてもらうかにかかっていると筆者は考えます。その大前提として仲間を大切にすること、時間を守ること、そしてお金の取り扱いには慎重を期すことは使用者にも労働者にも当然に求められているのではないでしょうか。
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(柏木)
NPO法人の運営する売店の販売員として働いていたところ、顧客対応上のトラブルから3か月間給与1割減の減給処分とともに謹慎として自宅待機を命じられたとの相談があった。
相談者は自分にも非のあることから減給処分は受け入れるつもりである。
問題は自宅待機である。
折からのコロナ騒ぎのためもあり売店は当分の間閉められることになった。
自宅待機は売店再開までの期間とし、減給は売店再開以降の3か月間と言い渡された。
使用者は「自宅待機」期間中の賃金を支払うつもりはないようである。
使用者のいう謹慎としての「自宅待機」の意味は分かりにくい。
賃金が支払われないことからすると懲戒処分のひとつとしての出勤停止処分とも解される。
この場合、減給処分との併科ということになる。
懲戒処分の併科が適法とされるためには、①就業規則に2つ以上の懲戒処分を課すことがあるとの規定があること(「就業規則上の根拠」)と②併科しなければならないほど処分対象行為が重大・悪質であること(「処分の相当性」)の2つの要件をクリアーすることが求められる。
本件についていえば、売店再開までという不定期の出勤停止処分が従業員の立場を著しく不安定にするものであることから、「処分の相当性」の要件をクリアーすることは困難である。
他方、自宅待機命令が懲戒処分としての出勤停止ではなく、コロナ騒ぎの影響で販売が減るなどの事情からの休業だと解する余地もある。
労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない、と定めている。
「使用者の責めに帰すべき事由」とは、不可抗力以外の場合と厳格に解されている。
すなわち、不可抗力とは解されない休業の場合は、使用者は休業手当の支払い義務を負うことになる。
また、緊急事態宣言の発令による休業であってもそれだけで不可抗力とは解されるわけではない。
したがって、販売不振がコロナ騒ぎの影響であっても使用者は休業手当の支払いを免れることはできない。(直井)
