受給中の傷病手当金が突然大幅に減額された、健康保険組合の担当者の説明に納得できないとの相談があった。
話を聞くと、1年半ほど前に傷病手当金を受給しはじめた。傷病手当金の受給期間の限度である18か月経過時点で会社を退職することが決まっていた。
退職予定日より2か月ほど前に健康保険の資格喪失手続きをしたことがトラブル発生の原因と思われる。
相談者によると、健康保険組合の担当者が、退職日と資格喪失日が多少ズレても問題がないこと、資格喪失後も傷病手当金は18か月経過まで継続給付されることを説明していたので安心していた。
確かに、1年以上の被保険者期間があれば、退職後(=資格喪失後)も18か月経過まで傷病手当金は継続給付される。
しかし、老齢年金を受給している場合、健康保険被保険者の資格喪失後は併給調整の対象となる(健康保険法108条5項)。
本件は、併給調整規定の適用により傷病手当金から受給中の老齢年金を控除した額が支給されたようだ。
総務省の公表した人口推計及び労働力調査によると、現在、就労者の7人に1人は、65歳以上の高齢者だという。老齢年金を受給しながら働いている高齢者は少なくない。
併給調整には要注意!
(直井)
傷病手当金の使用者証明欄を使用者が書いてくれない、離職票の交付手続をしてくれないなど使用者が法律で定める義務を履行してくれない、どのようにすれば使用者に強制できるのかという相談は相変わらず多い。
それぞれ健康保険法、雇用保険法が定める手続であり、使用者には法的義務がある。
しかし、労働者には使用者に義務の履行を強制する端的な手段がない。
手続自体の履行を使用者に求めることが労働者の権利として保障されていないからだ。
使用者は行政に対して履行義務を負うという仕組みだ。
したがって、そのような相談を受けた場合、まずは、ハローワークや保険者(協会けんぽなど)に対し、使用者が法に従って義務を履行するように指導することを求める、アドバイスをすることにしている。
それで使用者が行政の指導に応ずればことは解決するが、実際にはなんやかんやと理由をあげて、応じない使用者も少なくない。
離職票の不交付の場合は、手間はかかるが、労働者がハローワークに直接、離職の事実の確認請求をして、ハローワークの職権調査により、使用者を介さないでハローワークから直接離職票の交付を受けるという手続がある。
しかし、傷病手当金にはそのような手続はないので労働者としてはお手上げ状態になってしまう。
そのようなときは、使用者が記載を拒否した経緯を記載したメモを添えて、使用者証明欄は白紙のまま、保険者(協会けんぽなど)へ申請書一式を郵送しすることをアドバイスしている。
保険者の職権による調査を期待してのことである。
日本において労働法ほど守られていない法律はないといわれることがある。
罰則の適用がないからと高を括り、法を平気で破る使用者の横行を許せば、労働の現場は強者である使用者のやりたい放題の無法状態に陥ってしまう。
行政には法的な義務を無視する使用者に対しては職権で調査をするなど厳格な対応で望むことを期待したい。
経済的弱者である労働者を経済的強者である使用者の横暴から守るのが行政の役割であるはずだ。(直井)
病気の治療のため医者からしばらく会社を休むように指示され、有給休暇を利用して自宅療養をしていた。
有給休暇(約20日)をすべて使い切っても病気が治癒しないことから、有休休暇の最後の日をもって退職することになった。
退職後も病気が治癒しないまま働けない状態が続いている。
在職中は最後の日まで給与の支給があったため傷病手当金を受給していなかったが、退職後の期間について傷病手当金の申請はできるのかとの相談であった。
傷病手当金の支給を受ける条件は以下のとおりである。
①業務外の病気やケガのため療養中であること
②仕事につけないこと(労務不能)
③3日間連続して仕事を休み、4日目以降にも休んだ日があること
3日間連続して休むことのより待機完成となり、4日目以降の休んだ日から支給される。
④給与の支払いがないこと
受給は在職中だけでなく、退職後の期間についても、退職前に1年以上の在職期間があれば受けられる。
ただし、退職時に、傷病手当金を受けていたか、または受けられる状態であったことが必要です。
相談者は、退職の日まで有給休暇をとって休んでいたことから、無給欠勤の日がない。
そのことから、「④給与の支払いがないこと」の条件を満たしていないと思い込んでいた。
そのような心配は無用である。
退職時に、傷病手当金を受けていなくても、傷病手当金を受けられる状態であれば、問題ない。
例えば、病気で働けないことから仕事を休んでいたが給与が支払われていたため傷病手当金は支給されていなかった場合、なども受給できる。
「④給与の支払いがないこと」は、傷病手当金の調整のための条件といえる。
なお、退職日にたとえ半日でも勤務した場合は対象とならなくなるので注意のこと。(直井)
傷病手当金申請書の「事業主証明」欄への記載を拒否する使用者に関する相談は多い。
「事業主証明」欄は、傷病手当金申請期間にかかる出退勤の状況やその間の賃金の支払い状況を使用者が記載・証明する欄です。
客観的な事実の記載なので、記載することによって使用者の不利益になることは考えられないが、いやがらせか、理解の不足か、記載を拒否する使用者がいる。
健康保険法施行規則33条は、事業主は、従業員から証明を求められたときは、正当な理由がなければ拒むことができないと規定するが、直接的な罰則規定を欠くこともあって、使用者を指導すべき保険者である協会けんぽの対応が十分とはいえない状況である。
協会けんぽには、被保険者(従業員)の権利を守るために、法の規定を無視する悪質な事業主に対しては、強力な指導を行い、健康保険法197条の報告等義務違反として、場合によっては健康保健法216条の規定を適用しての過料(10万円以下)の制裁を視野に入れる強い対応を期待したい。
協会けんぽに使用者に対する強い指導を促す方法として、事業主証明欄への記載を使用者に拒否されている事情を記載したメモ(事業主証明欄が欠ける理由書)を添えて、事業主証明欄を空白のままで申請書一式を協会けんぽ宛て郵送する方法をお薦めしたい。
単なる電話での指導のお願いとは異なり、申請書の提出は協会けんぽに対するプレッシャーとなる。
協会けんぽの担当者が事業主へ電話による説得を行うことが期待できる。(直井)
傷病手当金の申請手続きを会社に依頼したところ、会社による代理受領を委任する欄に署名押印を求められたが、納得がいかないとの相談があった。
相談者はメンタルを病んで休職中であり、加入している健康保険は協会けんぽである。
傷病手当金は被保険者である従業員が申請することになっているが、在職中は会社経由で申請書を保険者に提出する取り扱いが一般的である。
また、傷病手当金は、保険者(協会けんぽ)から被保険者(従業員)に支払われるものであることから、支払い方法としては直接本人口座へ振り込む方法が一般的である。
ただし、保険者が健康保険組合である場合、会社による代理受領の取り扱いをし、一旦会社口座に振り込むという取り扱いをしているところも少なくない。
会社が代理受領を求める理由は、社会保険料の従業員負担分の控除のためと思われる。
会社は、社会保険料の従業員負担分と会社負担分を併せて毎月保険者に支払っている。
従業員負担分については通常は毎月の給与から控除する。
休職などのため支払い給与ゼロの月も会社は従業員負担分を含め保険料の支払い義務がある。
従業員負担分については会社はいわば従業員に立て替えて保険者に支払うことになる。
相談者には、会社に代理受領の取り扱いを求める理由及び法令上の根拠の説明を求めて、それでも納得がいかないのならば、会社経由ではなく、自分で申請書を作成し、直接保険者に提出することをアドバイスした。
もっとも、この場合には、会社証明欄は会社に記載してもらう必要があることから、会社とトラブルを起こしているとスムーズにいかないおそれもある。(直井)
