シフト制で働く労働者から相談があった。
コロナ禍で会社の仕事が減少し、それに伴って一方的にシフト(毎月の勤務日数)も減らされていたところ、ついに退職を勧奨され辞めることになった。
ついては、この間シフトが減らされて収入が減った分について従業員が直接申請できる休業支援金を申請したいので、会社記載用紙への記載を上司に求めたところ断られた。
理由は、会社がその分について雇用調整助成金の申請をしているとのことであった。
会社は、既に確定済みのシフトを減じた分については労働基準法の定める休業手当(賃金の6割)を支払っていたが、シフトが未確定な期間(翌々月以降)につてはシフトを減らしても労基法上の支払い義務はないとして休業手当を支払っていなかった。
にもかかわらず、その分について雇調金の申請をしているということは雇調金の不正受給をしていたということになる。
上司は、休業支援金に相当する額を支払うから、休業支援金の申請は辞めてほしいと相談者に求めた。
相談者の心配は上司の申し出を受けたら、会社の詐欺行為(雇調金の不正受給)の共犯となり、罪に問われるおそれがあるのではないかということだった。
相談者が、会社の行政に対する虚偽の申請にも、それにより給付金の不正受給を受ける行為にも直接加担していないことから、刑事罰の対象となる恐れはない旨を伝えた。
私のアドバイスを受けて相談者がどのように対応するかは不明だ。
コロナ禍での休業手当の問題は、シフト制で働く労働者の無保護状態を顕在化させた。(直井)
コロナ休業を指示されたにもかかわらず、休業手当が支払われない中小企業の労働者向けの給付金制度が7月10日から始まった。
名称は「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」だ。
休業前の賃金の80%(上限日額1万1千円)を受け取れる。
労働者による直接申請のほか、企業がまとめて申し込むこともできる。
労働者が申請する場合に必要な書類は以下のとおりだ。
①支給申請書
②支給要件確認書
③添付資料(ⅰ運転免許書など本人確認書類、ⅱキャッシュカード、通帳など金融口座確認書類、ⅲ給与明細、賃金台帳など休業開始前賃金及び休業期間中の給与を証明できる書類)
先のブログ(6月20日)でも指摘したが、労働者が直接申請する給付金制度の運用上の懸念は、使用者が必要な証明に協力しない場合の対応である。
この懸念に対して、「支給要領」は、事業主から「支給要件確認書」への記載の協力が得られなかった申請者は、事業主名記載欄に「事業主の協力を得られない」旨及び(事業主から拒否された、倒産のため事業主と連絡がとれない等)その背景となる事情を記載すればよいとと答えている。
次に、労働者が給与明細を保存していない場合の取扱いも気になる。
過去の給与明細を保存していない労働者は少なくないと思われる。
この場合は、使用者が作成保管している賃金台帳のコピーの提出で可ということだが、これにも事業主の協力が必要である。
なお、給与振込口座の記帳内容のコピーでも可である。
ただし、口座の記帳額は給与の額面額ではなく、税金、社会保険料などを控除した手取額であることから、これを基準とすると額面額を基準とする場合より平均給与額は小さくなるという不利益がある。
労働者が直接申請できる休業給付金とはいうものの、適切な情報収集には使用者の協力が不可欠である。
使用者の協力義務を明確にした上で、使用者の協力を得られなかった場合、行政が使用者へ強力な指導する運用が望まれる。(直井)
新型コロナ対応休業支援金(以下「休業支援金」という。)は、6月12日に成立した雇用保険法の臨時特例法によって創設された、休業させられた労働者が直接国に申請できる給付金制度だ。
コロナ禍のなか労働者を休業させた企業が雇用調整助成金をあえて利用せず、労働者に休業手当が支払われないというケースが相次いだ。
とりわけ中小企業で目立った。
申請手続きの煩わしさや手持ち資金が逼迫したことなどのため労働者への休業手当の支払を避けたとみられる。
休業労働者が国に直接請求できる給付金制度を求める声が高まった。
休業支援金の対象は、新型コロナの影響で2019年4月1日から9月30日までの間に休業させられたにもかかわらず、会社から休業手当の支払いを受けられなかった中小企業の労働者だ。
休業日数に応じて休業前の賃金の80%を月額33万円を上限に支給される。
申請には、休業日数や、休業前の賃金額を証明するための資料の提出が必要となる。
これらの資料は通常企業に作成・保存義務が課されている。
労働者が求めてもあえて休業手当を支払わなかった企業は、必要な証明資料の提出協力をも面倒だと応じない可能性がある。
必要な証明資料の提出に企業が協力しない場合、ハローワークなどの行政機関が直接企業を指導することが求められる。
証明資料の提出をすべて申請者である労働者の責任にされたら、自ら必要な資料を収集できる労働者以外にとって、折角の制度も絵に描いた餅になってしまうおそれがある。
日頃から税理士・社会保険労務士などの専門家と接する機会の多い企業経営者と違って、労働者には役所への手続に不慣れな者が多い。
労働者を申請者とする給付金制度においては、労働者の申請手続きを積極的にサポートする制度運用が望まれる。(直井)
小さなバーの雇われママから相談があった。
現在、コロナ禍のなかオーナーの指示で4月以来休業中である。
オーナーは事業者向けの「持続化給付金」や「家賃補助」の申請をしている。
しかし、会社が働き手に休業手当を支払う費用を支援する雇用調整助成金を申請するつもりはないという。
オーナーとは形式的には業務委託契約を結んでいる。
報酬は、基本給プラス歩合給だ。
営業日(月曜日から土曜日)や営業時間(19時30分から24時)がオーナーに指示されていることなどから、実質的にはオーナーの指揮命令下で働いている労働者といえる。
ママの相談は自分は休業下でどのような法的な保護を受けられるのかということであった。
事業主は、ママは個人事業主だから労働基準法の定める休業手当の対象とはならないし、休業手当を払うつもりはないという。
休業手当を受け取れない人が直接ハローワークに申請して受け取れる給付金が新設されるとのことだが、その場合、形式にせよ、労働契約ではなく業務委託契約が締結されていることが支障となるおそれがある。
また、実質的には労働契約であると解されることから、フリーランス(個人事業主)として持続化助成金の申請をするのも、ハードルが高そうだ。
形式は業務委託契約、実態は労働者であるいう働き方を強いられている者は少なくない。
今回のコロナ禍は、制度の狭間にあり、労働法の保護から排除された働き手の無保護状態をより顕在化させたといえる。(直井)