今週の火曜日(10月13日)及び木曜日(10月15日)に、相次いで労働契約法20条に基づく非正社員の格差是正にかかる最高裁の5つの判決がでだ。
労働者側にとっては、退職金・ボーナスは敗訴、他方、扶養手当・夏期冬期休暇格差は勝訴と明暗を分けた。
これらの訴訟は、契約社員やアルバイトなど有期契約で働く非正社員と正社員との間で、労働条件の「不合理な格差」を禁じた労働契約法20条の規定(現在はパートタイム・有期雇用契約法に移行されている。)に基づき争われたものである。
最高裁が示したのは当該法規定が禁じた「不合理な格差」の解釈・適用である。
できるだけ労働者を安く便利に使いたいのは、利益を目的とする企業にとってはある意味自然のことといえる。
したがって、法の規制など何らかの制約がなければ、労働契約の場において圧倒的に強い立場にいる使用者は、正社員を減らし、使い勝手のいい非正社員を増やし続けることになる。
法律による歯止めは必要不可欠である。
しかし、法律ができれば自然と格差がなくなるわけではない。
職場において格差の是正を実現するためには、非正社員自身が不合理な格差に異議申し立てをし続ける必要がある。
しかし、ひとり一人の労働者は使用者に対して圧倒的弱者である。
使用者に対峙する集団としての労働組合の出番だ。
正社員中心の既存の労働組合が十分に機能していないというのならば、非正社員が自らの組織化を考えるときではないか。(直井)
現在、コロナ禍で在宅勤務中の方から相談があった。
会社からオフィス勤務か在宅勤務かを選択し、新たな労働条件への同意書に署名するように求められた。
在宅勤務を希望する場合は賃金が1割ほど減額する。
通勤の煩わしさやコロナの感染リスクを考えるとオフィス勤務には戻りたくない、とは言っても、在宅勤務で賃金減額は困る。
「新しい生活様式」(在宅勤務)が賃金減額とセットになっている。
何か変ではないかとの相談であった。
労働条件の変更は契約内容の変更であるから、使用者と労働者との合意が必要です(労働契約法8条)。
また、労働者との合意なしに就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することは許されません(労働契約法9条)。
すなわち、法律上は原則として、労働者との合意なしに使用者が一方的に賃金減額をすることはできない仕組みになっています。
ただし、例外もあります。
労働契約法10条は、例外的に労働者との合意なしに就業規則の変更により労働条件を不利益に変更できる場合を定めています。
その場合、要件として変更後の就業規則の周知と変更内容が合理的であることが求められます。
変更内容の合理性をどのようにして判断するかについて、法は考慮事項として以下の5項目を示しています。
①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情。
いずれにしろ、使用者は恣意的に労働条件を変更できるわけではありません。
新しい賃金制度に納得ができないならば、同じ思いの仲間を集めて使用者と交渉してはどうでしょうか。
労働組合の出番です。
社内に労働組合が存在しないならば、企業外の組合である個人加盟方式のユニオンに相談することを薦めます。(直井)
安倍首相は去ったがアベ政治は続く。
新首相の座についた菅氏はアベ政治の継承を掲げ、「めざす社会は自助、共助、公助、そして絆だ」と述べる。
「自助、共助、公助」の言葉自体は特定のイデオロギーを体現したものではない。
しかし、アベ政治と一体となると俄然イデオロギー性を帯びる。
アベ政治のイデオロギーは自己責任や競争を重んじる新自由主義である。
政府の役割を縮小し、経済活動の自由を第一とする考え方である。
当然「自助・共助、公助」のうち「自助」に重点が置かれることになる。
ところで労働組合は共助の組織である。
経済的弱者である労働者は、助け合い集団となることによってはじめて、経済的強者である企業の違法・不当な振る舞いに異議を申し立てることが可能となる。
ほっとユニオンは、共助を大事に育てる社会を目指したい。(直井)
コロナ特例の雇用調整助成金を利用して10割補償の休業手当を求めるなど使用者と労働条件について話し合うために労働組合を作りたいが、どのような手続き必要かと聴かれることがあります。
労働組合の定義規定としては、労働組合法に「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」(2条本文)とあります。
しかし、行政への届け出とか許可とか、組合結成の手続きについての法の定めはありません。
2人以上の労働者が集まって労働組合を結成するという合意をすればいいだけです。
しかし、労働組合は単なる個人の集合体ではなく団体ですから、一般の団体と同様に、代表者を定め、運営上の約束ごと(組合規約)を定める必要があります。
組合規約については、労働組合法5条2項に名称(1号)、所在地(2号)など必要的記載事項が定められています。
もっとも、5条2項の定める必要的記載事項には、会計報告に「職業的に資格のある会計監査人による正確であることの証明書」を添付すること(7号)など小さな組合にとってはハードルの高いものもあります。
しかし、労働組合の定義の基本的要件(2条本文)を満たすものならば、かりに規約に不備があっても、団体交渉権、刑事・民事の免責など労働組合としての基本的な保護を享受することができます。
職場の同僚と語らって気楽に労働組合を名乗り、使用者に団体交渉を申し入れましょう。
自分たちだけで労働組合を結成し、会社に交渉を申し入れることが面倒ならば、既存のユニオンに加入して、企業内の分会を結成して団体交渉を申し入れる方法もあります。
ほっとユニオンはこのような分会作りのお手伝いもします。(直井)
ユニオンを脱退したい、どのようにすればいいのか、との相談を受けた。
ユニオンへの相談としては異例のものである。
ほっとユニオンは他のユニオンの案件には介入しない方針である。
相談者の話しは概ね以下のとおりである。
訪問介護事業所でヘルパーとして勤務していたところ、社長から突然解雇を言い渡された。
納得できないので、帰宅後、ネットで無料相談を捜した。
はじめにみつけた弁護士事務所での無料電話相談のやりとりは以下のとおりであった。
月額25万円の給与であること及び簡単な解雇の経緯を説明したところ、100万円はとれる案件だといわれた。ただし、弁護士費用として着手金20万円と成功報酬(獲得した金銭の20%)はかかるとのことであった。
着手金20万円に躊躇した相談者は、さらにネットを検索し、無料を謳っている○×ユニオンのホームページがヒットした。
電話での相談の後、会社に対し具体的に交渉を始めるには組合に加入する必要があるといわれた。
メールで送信された加入用のulrをクリックすると組合加入申込書の書式が表示された。
そこに氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどを記載して送信した。
解決金の30%を義援金として支払うことへの同意を求めるチェック欄にも同意のチェックをいれた。
その後、交渉担当者を名乗るA氏から電話があり、社長への連絡方法などを尋ねられた。
そして、A氏は社長と電話で交渉を始めたようである。
しかし、社長の対応は堅く、解雇言い渡しの際に相談者に支払いをほのめかした給与1か月分(25万円)以上のものは出せないということになった。
それも3回の分割払いだという。
相談者はそれでは最初の社長の提案と額が同じであること、分割ということでは条件はむしろ低下していることから、再度の交渉をA氏に依頼した。
A氏は怒りだし、「自分では出来ないから代わりに交渉をしてやっているのになんだ」、「なんなら降りてもいい」と逆ギレされたという。
労働組合は、一人では弱者である労働者がお互いに助け合う共助の組織だ。
組合の担当者の顔も見ないで、メールと電話のやりとりだけで、交渉を丸投げするのは安易に過ぎる。
どっちもどっちだという気もする。(直井)