今週の火曜日(10月13日)及び木曜日(10月15日)に、相次いで労働契約法20条に基づく非正社員の格差是正にかかる最高裁の5つの判決がでだ。
労働者側にとっては、退職金・ボーナスは敗訴、他方、扶養手当・夏期冬期休暇格差は勝訴と明暗を分けた。
これらの訴訟は、契約社員やアルバイトなど有期契約で働く非正社員と正社員との間で、労働条件の「不合理な格差」を禁じた労働契約法20条の規定(現在はパートタイム・有期雇用契約法に移行されている。)に基づき争われたものである。
最高裁が示したのは当該法規定が禁じた「不合理な格差」の解釈・適用である。
できるだけ労働者を安く便利に使いたいのは、利益を目的とする企業にとってはある意味自然のことといえる。
したがって、法の規制など何らかの制約がなければ、労働契約の場において圧倒的に強い立場にいる使用者は、正社員を減らし、使い勝手のいい非正社員を増やし続けることになる。
法律による歯止めは必要不可欠である。
しかし、法律ができれば自然と格差がなくなるわけではない。
職場において格差の是正を実現するためには、非正社員自身が不合理な格差に異議申し立てをし続ける必要がある。
しかし、ひとり一人の労働者は使用者に対して圧倒的弱者である。
使用者に対峙する集団としての労働組合の出番だ。
正社員中心の既存の労働組合が十分に機能していないというのならば、非正社員が自らの組織化を考えるときではないか。(直井)
安倍首相は去ったがアベ政治は続く。
新首相の座についた菅氏はアベ政治の継承を掲げ、「めざす社会は自助、共助、公助、そして絆だ」と述べる。
「自助、共助、公助」の言葉自体は特定のイデオロギーを体現したものではない。
しかし、アベ政治と一体となると俄然イデオロギー性を帯びる。
アベ政治のイデオロギーは自己責任や競争を重んじる新自由主義である。
政府の役割を縮小し、経済活動の自由を第一とする考え方である。
当然「自助・共助、公助」のうち「自助」に重点が置かれることになる。
ところで労働組合は共助の組織である。
経済的弱者である労働者は、助け合い集団となることによってはじめて、経済的強者である企業の違法・不当な振る舞いに異議を申し立てることが可能となる。
ほっとユニオンは、共助を大事に育てる社会を目指したい。(直井)
コロナ特例の雇用調整助成金を利用して10割補償の休業手当を求めるなど使用者と労働条件について話し合うために労働組合を作りたいが、どのような手続き必要かと聴かれることがあります。
労働組合の定義規定としては、労働組合法に「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」(2条本文)とあります。
しかし、行政への届け出とか許可とか、組合結成の手続きについての法の定めはありません。
2人以上の労働者が集まって労働組合を結成するという合意をすればいいだけです。
しかし、労働組合は単なる個人の集合体ではなく団体ですから、一般の団体と同様に、代表者を定め、運営上の約束ごと(組合規約)を定める必要があります。
組合規約については、労働組合法5条2項に名称(1号)、所在地(2号)など必要的記載事項が定められています。
もっとも、5条2項の定める必要的記載事項には、会計報告に「職業的に資格のある会計監査人による正確であることの証明書」を添付すること(7号)など小さな組合にとってはハードルの高いものもあります。
しかし、労働組合の定義の基本的要件(2条本文)を満たすものならば、かりに規約に不備があっても、団体交渉権、刑事・民事の免責など労働組合としての基本的な保護を享受することができます。
職場の同僚と語らって気楽に労働組合を名乗り、使用者に団体交渉を申し入れましょう。
自分たちだけで労働組合を結成し、会社に交渉を申し入れることが面倒ならば、既存のユニオンに加入して、企業内の分会を結成して団体交渉を申し入れる方法もあります。
ほっとユニオンはこのような分会作りのお手伝いもします。(直井)
ユニオンの選び方を教えてほしいとの相談があった。
話しを聴いてみると以下のような事情があった。
ある事情から企業内に存在する組合を脱退した。
今後も同じ職場で働き続けるつもりであるが、不利益な配転などいやがらせを受けたときの保険として企業外のユニオンへの加入を考えている。
いま抱えている具体的な交渉事項があるわけではない。
ネットでユニオンを検索したら多数のヒットがあった。
明日、ネットで見つけたユニオンの事務所に相談に行くつもりである。
解決金目当ての悪いユニオンも多いと聴くので不安だ。
良いユニオンの見分け方を教えてほしい。
ほっとユニオンでは会社内に既存の組合があり、その組合を脱退した者からの案件は解雇案件以外は原則として受けないようにしている。
企業内で組合員を組織し日常的に会社と集団的な関係を築いている組合活動を尊重したいからである。
組合運営など何らかの不満があったとしても安易に脱退という選択肢をとるべきではない。
会社組織と違って組合組織には役員選挙など民主的な手続がある。
組合運営に不満ならば、そのような手続きを活用して組合を変えてゆく努力をすべきだと考えるからである。
相談者からは、組合を脱退した経緯をあえて聴かなかった。
企業内に当該組合員1人しか組織していないユニオンにとっては、当該企業と日常的な労使関係を築くことが困難であることを説明した上で、その地域で比較的多くの労働者を組織していることを基準としてユニオンを選ぶことをアドバイスした。
組織人数の多さは、個別案件ごとの解決金に頼らず、安定的な組織運営をしていることの証左となる。
しかし、労働組合(ユニオン)は利用し、消費する商品ではない。
参加して一緒に活動することを考えてほしい。(直井)
3年前にリストラ退職勧奨を断って以来、2度の転勤や最低評価の人事考課が続いたことによる減給、些細なミスを大袈裟にしての叱責、廻りにアイツはダメなやつだと言いふらすことなどの陰湿な嫌がらせが絶えない。
少しでも嫌がらせをやめさせることができないかとの相談があった。
相談者が弁護士に相談したところ、法に触れないように慎重に考えた上での意図的な組織ぐるみの嫌がらせと考えられること。
悪質ではあるが、法的な対応は難しいとのことであった。
そこでユニオンの団結の力で多少なりとも会社を牽制できないかと期待しての相談であった。
社内のいじめ退治の一番効果的な方法は職場に愚痴をいえる仲間を作ることです。
しかし、社内に何の足場のない社外の組織であるユニオンにはそのようなお手伝いは難しい。
また、不当解雇などの個別的労働紛争を主に取り扱う小規模なユニオンは、会社との交渉において、労基法、労働契約法など労働法規を交渉の武器として会社の違法不当な行為を攻撃するのを常とする。
不当ではあるが違法とまではいえない社内の陰湿な嫌がらせ退治についての団体交渉は困難だ。
嫌がらせ行為が違法と評価されるほど強く明確なものならば、裁判を見据えて強い態度で団体交渉に臨むことができる。
そうでない場合、社内においては当該一人の組合員のみを組織するにすぎないユニオンは職場内での団結の力の裏付けを欠く交渉を強いられることになる。
ユニオンはしばしばその組織力の弱さを補う補完的な闘争手段としてマスコミを味方につけ、当該個別案件を社会問題化して闘う手法をとる。
会社が著名な大企業であるとか、違法行為が世間の目を引くものであるときは有効であるが、本件相談には不向きだった。
会社が法に触れないように注意して行う陰湿ないじめ行為については、団体交渉をしても、そのような事実はない、人事権の範囲の行為だ、上司による適法な指導だ、などと言い逃れられると、追求に詰まってしまうことが多い。
なお、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が2020年6月に施行される(ただし、中小企業は2022年4月施行)。
しかし、同法は、端的にパワハラを違法行為として罰則をもって禁止するものではなく、苦情などに対する相談窓口の整備などパワハラ防止のための雇用管理上の措置を企業に義務づけるものに過ぎないことから、この法律が施行されても直ちに本件相談者の希望にそうことは期待できない。(直井)