中小企業で働く女性からの「いじめ」の相談があった。
職場内の女性グループから「無視」をされるという陰湿な「いじめ」を2年以上にわたって受け続けているということだった。
「いじめ」は子どもの世界だけにあるものではない。
直接顔を合わせて活動する集団においては、大人の世界でも「いじめ」は存在する。
集団において全員の考えがいつも一致するわけではない。
考え方や行動様式の違いがあったりして、多数派が生じ多数派に与しない人は疎んじられることになる。
日本社会に根強く存在するムラ社会における同調圧力だ。
これがエスカレートしたのがいじめだ。
いじめに対する一番の解決策は、その集団から抜けることだ。
子どものいじめが深刻なのは、学校という集団から抜け出すことが困難であることに原因がある。
職場におけるいじめの深刻さも同様に職場という集団から抜け出すことの困難さに原因がある。
子どものいじめは学校管理者が対応することが求められる。
職場のいじめは事業主が対応することが求められる。
改正労働施策総合推進法30条の2(パワハラ防止法、2020年6月1日施行、ただし中小企業は22年4月1日施行)は、以下のとおり規定する。
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(「パワハラ」)のないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
また、指針において職場におけるパワハラの例の一つとして「一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立化させること」を挙げている。
したがって、相談事例はパワハラ防止法がいうパワハラに該当するものであり、使用者が相談に応じたり、パワハラ研修の実施など雇用管理上の措置を講ずることを求められるものである。
しかしながら、職場における少数者を排除しようとする心理は日本社会に広く根付いているムラ社会に起因するものであることから、職場研修などを実施しても即座に払拭されることが期待できるものではない。
「悪いのはいじめるほうだ」という正論が簡単には通らないという残念な現実がある。(直井)
パワハラを受けていると、美容師からの相談があった。
相談者は美容院でスタイリストをサポートするアシスタントとして働く女性である。
パワハラ行為者は男性のスタイリストである。
スタイリストがアシスタントにちくちく発するいやみをめぐり、言い争いに発展した。
スタイリスト曰く「アシスタント同士は勤務時間中話しをするな」、「自分は水すら夜まで飲めないぐらい働き詰めなんだから、その間、アシスタントも水を飲むな」「スタイリストの売上げからアシスタントの給料を払っているのだから」
これに対しアシスタントが反発して、「あなたにそこまでいわれる筋合いはない」と言い返したところ、スタイリストは「オーナーにいって辞めさせてやる。」と強く反撃した。
スタイリストは即座にオーナーに電話をし、あのアシスタントとは一緒に働けない、アシスタントを辞めさせろ、アシスタントが辞めないのならば俺が辞めるとすごんだ。
他方、アシスタントはオーナーにスタイリストの暴言を伝え指導を要請した。
俺をとるかアシスタントをとるか、とスタイリストにすごまれたオーナーはスタイリストの側についた。
オーナーはアシスタントのシフトをこれまでの週4日から週1日に減らしたうえでスタイリストの休みの日のみを勤務日に指定するようなシフトの変更をアシスタントに伝えた。
スタイリストは、オーナーから美容室の場所の一部を借りてその売り上げをオーナーと折半する契約を締結して働く個人事業主である。
アシスタントはオーナーと労働契約を結び時給1000円で働いているシフト勤務のパート従業員である。
立場の違う労働者同士の諍いといえる。
スタイリストは、収入が売上げに直結していることから、働き詰めの状態に追い込まれている。
スタイリストもオーナーとの関係では弱い立場の労働者といえる。
収入の保証のないなかで働き詰めを強いられる弱い立場の労働者がより弱い立場のパート労働者をいじめる構図がそこに見えてくる。
働き方の多様化による労働者の分断が生んだ闇である。(直井)
ほっとユニオンは、不当解雇・未払残業代などの労働者トラブルの相談を受けたとき、まずは使用者との話し合いである団体交渉での解決を目指します。
団体交渉においてはどのような法的権利が侵害されたかなど、具体的な権利関係を踏まえた交渉を実施します。
権利関係を踏まえた交渉を重視する理由は、交渉が行き詰まったとき、次の手段として裁判所の利用を考えているからです。
ほっとユニオンは、団体交渉が不調に終わったときは、労働審判の申立てを行うことにしてます。
裁判所に争いを持ち込むためには、労働者が法的な権利を有することだけでなく、それを証明できる証拠があることが必要となります。
事案により必要な資料は異なりますが、具体的には次のような資料が必要です。
基本的な資料は労働相談の時点で持参していただけると助かります。
①不当解雇
・雇用されていたこと(雇用契約書、労働条件通知書、給与明細書)
・解雇されたこと(解雇通知書、口頭での解雇言い渡しの場合は、何時、どこで、誰から、どのように言われたかを記載したメモでも可)
・使用者の主張する解雇理由(解雇理由証明書、書面がない場合は解雇理由について使用者が発言した内容を記載したメモでも可)
②未払残業代
・労働時間の記録(タイムカードのコピー、業務日誌のコピー、パソコンのログ記録など。なお、客観的な証拠がない場合は、自分で毎日記載したメモでも可)
・支払われた賃金などの記録(給与明細書、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則のコピー)
③セクハラ
・セクハラ行為(メール、録音など。なお、客観的な証拠がない場合、いつ、どこで、誰が、どのように、とセクハラ行為を具体的に記載したメモでも可)
・被害の内容(メンタルクリニックの診断書など)
④パワハラ
・パワハラ行為(録音、客観的な証拠がない場合、いつ、どこで、誰が、どのように、とパワハラ行為を具体的に記載したメモ)
・被害の内容(メンタルクリニックの診断書など)
(直井)
上司によるパワハラが耐えられず退職した労働者からの相談があった。
退職を撤回したいとか、パワハラの慰謝料を請求したいという相談ではない。
退職日の1か月後に支払われるはずである夏の賞与を請求できないかという相談です。
夏の賞与の評価対象期間は在籍している。
しかし、支給日を待てずに退職してしまった。
退職を急いだ理由が上司のパワハラに起因したことから、賞与不支給が納得ができないとのことです。
支給日在籍要件が就業規則などに定められていれば、賞与の評価対象期間には在籍しているが賞与の支払い日に在籍しない従業員を支給対象から除外とすることは一般的には違法とはいえない。
問題はパワハラで辞めざるを得なかった事情をどう評価するかです。
支給日まで在籍できなかった事情が会社側の責任ともいえる本件では、支給日在籍要件を満たさないことによる不支給は、信義則違反、権利の濫用として争う余地はある。
しかし、パワハラの事実およびそれと退職との因果関係の立証など超えなければならないいくつかのハードルがある。
ほっとユニオンとしては、可能ならば、その場の勢いで「辞めてやる!」と啖呵を切る前に相談に来て欲しかった。(直井)
美容院でアシスタントとしてシフト制で働く従業員からの相談があった。
仕事上の上司にあたるスタイリストからパワハラを受け、オーナーに相談したところ、オーナーはスタイリストの肩を持ち、不当解雇されたとの相談であった。
ユニオンとの団体交渉の席で、オーナーは、解雇はしていない、相談者が自らの意思で辞めたのだ、でも従前どおり働くことを希望するならば明日から出勤してもらってかまわないと述べた。
実質は解雇の撤回であるが、不当解雇の取り消しを求められた使用者の対応としてはよくあるパターンの一つである。
解雇案件において解雇が撤回されれば、その間の経緯に多少の不満はあってもそれ以上は争わないで一件落着とし、職場復帰するのは一つの解決策である。
しかし、相談者はすでにシフトが決まっていながら、パワハラのために出勤できずにいた期間の賃金補償の請求を譲らない。
スタイリストから受けたパワハラ行為を考えれば、もっともな要求である。
これに対して、オーナーはそもそも解雇はしていないのだから出勤していなかった期間の賃金補償はゼロだと譲らない。
解雇という事実があったのか否か、パワハラ行為は存在したのか否か、という基本的な事実関係についての双方の認識のずれが大きいことが話し合いでの解決を困難にした。
ほっとユニオンはこのような場合、労働審判を次の手段として選択することにしています。
本件においても、相談者と今後の方針を相談した結果、相談者の気持ちを尊重して、安易な妥協は避け、裁判(労働審判)で白黒をつける方策をとることとした。
手間暇はかかっても、たとえコスパは悪くても、労働者には譲れない一線がある。
ほっとユニオンはそのような労働者のお手伝いをします。
目下、労働審判の申立ての準備作業中である。(直井)