有給休暇がとれないという警備会社の従業員の相談を受けて、使用者と団体交渉をした。
我が社はシフト制(1か月単位の変形労働時間制)をとっており、毎月翌月のシフトの調整をする際に個々の従業員の希望をいれて休み(勤務を要しない日)を決定しているので、有給休暇の必要はない、そもそもシフト決定後に勝手に休まれたら警備先への人員のやりくりができなくなる、との使用者による最初の説明を聴いて唖然とした。
そもそも、有給休暇は「勤務を要する日」に有給で休めることを保障する休暇制度である。
有給休暇の趣旨は、労働者の心身のリフレッシュを図ることにある。
シフト制の場合、シフト決定後に「勤務を要する日」と指定された日に有給休暇の請求をすることは当然許される。
この会社の場合は、シフト調整時に所定労働日の一部を有給休暇として申請することも認めていなかったようである。
有給休暇をとることを前提に必要な人員を確保することは使用者の責任です。
労基法の有給休暇に関する定めは強行法規であるので、有給請求権を事前に放棄する契約は無効です。
また、労働者の請求(時季指定)による有給休暇の取得が進まないことから、労働基準法が改正されて、2019年4月からは、年10日以上有休が付与される労働者に対しては企業は5日間の有休を指定して休ませることが義務づけられた(39条7項)。
有給休暇の取得は労働者の権利であるだけでなく、使用者の義務でもあるのです。(直井)
正社員としてシフト制で働いている相談者が体調不良で2週間ほど休んだ後、明日から出社すると会社に連絡したところ、解雇予告の言い渡しとともに言い渡し日から解雇日まで出社におよばずと命じられた。
事実上の即日解雇であるが、解雇言い渡し日から解雇日まで30日以上あることから解雇予告手当の支払い義務は発生しない。
相談者の不満は解雇そのものの不当性にあるのだが、それは別として、解雇言い渡し日から解雇日までの賃金は支払われるのであろうか?
会社は解雇言い渡し日から先にシフトの指定がないことを理由に賃金の支払を免れるつもりのようだ。
しかし、出社に及ばないとしてシフトを組まないのは会社の責任であり、シフトがないことを理由として賃金の支払いを免れることは許されない。
会社側の都合で労務の受領が拒まれているのだから、労働者は反対給付としての賃金を受ける権利は失われない(民法536条2項)。
正社員である限りシフト制であっても、月何日出勤するなど所定労働日数、所定労働時間の定めがあるはずである。
シフトが組まれていない場合でも、所定労働日数、所定労働時間に基づいて賃金請求権が発生することになる。
なお、本件では休業手当ての支払い義務も発生する。
休業手当ての支払いは、平均賃金の6割を罰則の強制をもって使用者に支払わせる労基法上の義務である。
しかし、たとえ、6割の休業手当てが支払われたとしても、労働者は民事上の請求権として通常勤務していれば支払われるべき賃金額に不足する額について請求権を失うものでにない。
すなわち、かりに休業手当てが支払われたとしても、通常の賃金額に不足する額についての請求をあきらめることはない。(直井)